量子電磁気学のリノマライゼーションの業績で、朝永振一郎、ジュリアン・シュウィンガーらとともにノーベル賞を受賞した天才リチャード・ファインマンが生涯になしとげた科学的業績の全貌を知ることができる稀有な一冊。ファインマンの業績といえば、彼の本領たる素粒子理論における経路積分法、V-A理論、パートン模型といったあたりが有名ですが、他にも量子重力、超流動、量子コンピュータなどの領域でも重要な仕事をしてるんですね。それらあまり知られていない領域の仕事についてもしっかりと解説がある本というのは他には見当たりません。
ファインマン自身は、自身の最大の業績であったはずのリノマライゼーションは自然の法則を明らかにしたいという彼の切なる願望を満たすものではなく、自分はひとつもそうした発見をなしとげられていないと感じていたらしい。理論に現れる無限大を実験値に置き換えてしまうリノマライゼーションの処方が現に可能であるという事実それ自体こそが、自然の奥深い仕組みを明らかにするものであったのだと今では認識されていますが、当時はあくまで一時的な、根本的な理論にいずれ取って代られる運命にあるものだと思われていたのでした。
その際立つ独創性においてファインマンは疑いもなく20世紀後半期最大の理論物理学者であったけれども、量子革命後の時代と標準模型確立の時代の狭間の時期に最盛期を迎えた天才の宿命として、彼は量子力学理解の深化によるクォーク力学解明への地ならしという重要だが派手さのない歴史的役割を担わざるをえなかったということなのかもしれない。