夫婦、親子、職場の上司、同僚、部下、地域や学校の集まり、たまたま居合わせた人たち。少しでも相手を理解したい、上手に気持ちや考えを伝えたい、こじれかけた関係を修復したい。その方法を心理学に基づいて具体的に説明しています。著者は特にカール・ロジャーズをたびたび引用しています。
この本は三つの技術を扱っています。
1. 聞く技術。聞くのは言葉だけではありません。態度、表情、声の調子から、相手が本当に言いたいことを読み取り、感じ取る技術です。
2. 言うべきことを言う技術。面倒を避けて我慢するのでもなく、攻撃的になるのでもなく、言うべきことを受け入れてもらえるように伝える技術です。聞く技術の応用でもあります。ただし、相手や状況によっては難しい場合があることも説明しているのは現実的だと思います。
3. 衝突に対処(conflict management)する技術。衝突は避けられない場合もあります。その時の解決方法と協力して問題を解決する方法です。
技術以外の要素として、第15章で誠実さ(genuineness)、無私の愛(non-possessive love)、共感という態度を説明しています。
家庭、友人、職場、どれも対人関係が基本です。その技術を避けては通れません。言うまでもありませんが、この本の目的は、他人を操作したり利用したりするのではなく、人と人との良い関係を築くことです。ほんの少しだけ、アメリカ的、キリスト教的な臭いがしないでもありませんが、嫌ならそこだけ残して他の多くの良い点を受け入れれば良いと思います。
この本では原著
People Skills の五つの技術を三つにまとめています。抄訳ではなく、単なる編集の仕方の問題です。なお、ところどころ原著の記述を省略あるいは少し変えて翻訳してあるところがありました。また、第7章の形容詞の一覧や図7-1は逐語訳ではなく一から作り直したほうが良かったように思います。語感が元の語と違ってきています。
全部を比較したわけではありませんが、明らかな誤訳はないか、あったとしても非常に少ないと思います。ただし、落ち着かない状態を表す frustrated を「頭に来る」とするなど、原文と語感が違うところもあります。その母親は落ち着かないだけであって、子供に怒っているわけではありません。感情を表す言葉はなかなか翻訳しにくいので、原著と併読したほうが著者の言いたいことがさらに良く分ると思います。