ピーク・オイルとは、一言でいえば「石油生産の増大が遠くない将来ピークを迎え、それ以降は減少に転ずるという予測」である。本書は、石油を切り口にイラク戦争やグローバリゼーションを論じると同時に、石油企業と個人との魅力的なエピソードを通じて人間の弱さと強さを綴った、石油をめぐる果てしない物語の一編だ。いわゆる石油メジャー陰謀史観に終わらない著者の目線に好感の持てる良書で、訳者あとがきも抜群に面白い。
だが、私たちはそろそろ気づいてもよいはずだ。ピーク・オイルを目新しい危機として語ることが、石油のための戦争を容認する「先進国」に生きる人間に許された特権だということに。安価な石油はもうすぐなくなるかもしれない?石油の生産がいつか需要に追いつかなくなる?自国の天然資源へのアクセス権を奪われたイラクやアチェ、コロンビア、チェチェン、そのほか私たちが名前さえ知らずに一生を終えるであろう多くの地域では、石油をめぐって人間が殺されることなど日常茶飯事だ。なぜなら、私たちが手放したくないと思っている石油―身のまわりに溢れかえる車やプラスチック製品に象徴される富の源泉―は、本来なら彼らのものなのだから。
世界の富の80%をわずか20%の人口が独占する非対称の世界では、初めから自分たちのものを失うことさえできない人々が多数を占める。私たちが当然の権利として享受している物質的な利便性は、失うことすらも実は一つの特権だ。本書で紹介されている「なぜ我々の石油が、奴らの砂の下にあるのか?」という秀逸なフレーズは、私たちの石油依存症が末期症状であることを冷徹に告げている。処方箋を手に入れるためには、石油のための戦争を続ける藪医者たちに見切りをつけ、私が、あなたが、石油文明の申し子であることを止めなければならない。