「日本人が発行したルーブル札の謎」という副題と、第2回城山三郎経済小説大賞受賞作ということで、経済史をベースにした小説だと思ったのですが、その色合いよりも知られざる戦争史実を扱った歴史小説といった趣が強く感じられました。
巻末に書かれていますが、ピコラエヴィッチ紙幣とは、ニコラエフスク・ナ・アムーレ (尼港)にあった島田商会が発行した商品券というべき性格の島田商会札のことでした。
当地で幅広く交易をおこなっていた実在の島田商会の果たした役割の中にこの聞き慣れぬ紙幣があったわけです。日中戦時中の軍票は知っていましたが、民間会社が発行した地域通貨なんてほとんど知られていないことが、題材としての面白さにつながり、本書の価値を上げているでしょう。
1920年におこった尼港事件は教科書で少し習うくらいで、日本人にとって馴染みのない事件ですが、ロシア革命後の混乱の中でおきた実に残虐な史実を元に本書は構成してありました。
フィクションとしていますし、登場人物も架空の人物を登場させていますが、しっかりとした調査により、ノンフィクションを読んでいるような気分にさせられました。
主人公とでも言うべき黒川収蔵とオリガのロマンスは本書の構成に大きく関わっていたわけで、ラストの意外な展開がまた読者を惹きこむ要素になり得たでしょう。
中間部はリアリティを加味させようとするあまり、少し展開が遅くなるきらいがありましたが、後半の100ページ以上にわたる戦闘シーンはテンポも良く、グイグイと読者を引っ張って行きます。臨場感あふれる描写はまさしく小説の醍醐味を伝えるものでした。このあたりの文章はとても力を感じさせるものでした。
熊谷 敬太郎さんは、本書で小説デビューを果たしました。63歳とのこと。別の職業を持ってこられたわけですが、この遅咲きの作家の次の作品を楽しみにしています。