『蘆屋家の崩壊』以来久方ぶりの登場となる、猿渡と伯爵の2人がまみえ織り成す津々浦々の怪異談。ミステリーやホラーというのとはまた違い、怪奇小説という形容が思いつく中では最もしっくりくるような手触りは、例えば『綺譚集』で行われた"異形のモノたちが蠢くその様を、その悲哀を戦慄を、余剰を削ぎ落とし研ぎ澄まされ剥き出しにされた美意識が支配する流麗な文体に乗せて放ち読み手を幻惑する"手法とはまた異なり、"人知を超えたモノの存在を背後に匂わせ感じとらせながら、しかしそれはダイレクトに表出せず常に背後の模糊とした存在として在り続け、その存在が産み出す影響下に期せずして引き込まれ、巻き取られ染められていく人間が織り成す悲喜劇を、ある時は背筋をゾクリとさせる慄きでもって、またある時は洒脱なユーモアを絡めて描き出していく"感じ。
猿渡と伯爵のキャラクターに加えて、絶妙なる魅力となっているのが全国津々浦々の怪異に絡められ時に主題となる山海の珍味。浅薄な自称グルメなど敵うはずもないマニアックで珍なる美味の食材が、それこそ山と現れる。キビャックに内田ザリガニに蛭詰めのソーセージetcetcetc...既にしてグルメといえるのかワカランような食がばんばん登場する。昂奮するぜ。たまにヒクがな。
そして相変わらず津原氏の文体というのは非常に美しく、何だかピアニストの指を思わせるようにスラリと伸びやかで無駄がなく、それだけでとても魅力的。