フェルナーの最近の演奏(2010年あたりから)は、ベートーヴェンに集中しているらしい。
演奏会では、ピアノソナタを中心としたものを多くとりあげているようだが、
すでに、CDリリースされた協奏曲演奏はどうであろうか。
マリナー指揮のアカデミー室内管による2番および3番、
そしてこのケント・ナガノによるモントリオール響をバックにした4番および5番は、
いずれもフェルナーの本領ともいうべき、隙のない完成度の高さを示した演奏である。
ピアノの音の出現が自在であり、すべてにコントロールが行き届いている。
ベートーヴェン音楽の表現方法において不可欠なものは、フェルナーのように、
音楽的諸要素(ディナーミク、アゴーギク、和音、音色、フレージング等々)に
すべて無理なくバランスよく配慮できる力である。
一言でいえば、「即興性に富んだ美しい」ベートーヴェンである。
響いてくる音そのものの美しさは、すでに師匠のブレンデルを凌駕している。
一方、彼の演奏自体には、けっしてゴージャスな派手さはない。
これらの協奏曲演奏に興奮を呼び起こすような喝采を求めるリスナーには、
評者はこれらのCDをお勧めすることはない。
それを求めるのであれば、ジュリーニ、ウィーン響とのミケランジェリのライブ演奏など
(この演奏も別の意味でもちろん素晴らしいものであるが)が打ってつけかもしれない。
しかし、フェルナーの演奏には、ベートーヴェン協奏曲演奏の独自の境地がある。
それは、マリナーとのモーツァルト協奏曲(19番、25番)でも同様に、
あざとさのない自然な即興性によって示されていたものである。
フェルナーの演奏は、多様なピアノ演奏方法の中において、
他の誰にも真似することができない、一つのみごとな価値を備えた音楽表現を
はっきりと示すものとして、特筆に値するものである。
とにかく、是非一度お聴きにになることをお勧めしたい。
最後に、このレビューは、フェルナーによる冒頭の4つのベートーヴェン協奏曲
演奏すべてのCD評であることを付記する。