音楽に関する脳科学の最新の知見が専門外の人にも分かりやすい
平易な語り口で紹介されています。それでいながら,
しっかりとした文献リストがついていて,専門家が
必要に応じて知識を深く掘り下げられるような配慮もされています。
タイトルにあるようにピアニストが話題の中心にはなっていますが,
ピアノ演奏に限らず音楽・聴覚と脳科学一般に関しても幅広く書かれています。
音楽を心理学,脳科学の観点から論じた本は多くありますが,
これほどまでに最新の知見が豊富に紹介されている本は他にないと思います。
そしてそれらの知見が単にカタログ的に並べられるわけではなく,
読んでいて飽きがこないよう自然な流れの中でテンポよく紹介されています。
これは第一線の研究者でありながらも論文を書くだけでなく,
研究者以外の人に研究成果をわかりやすく紹介する
アウトリーチを重視している著者の姿勢の表れだと思います。
音楽と脳について論じた本には「なんだこの程度のことしかわかっていないのか」,
とがっかりさせられるものが多かったのですが,この本は初めて
「もうこんなことまでわかってきたのか!」と興奮しながら読むことができました。
ここ10年の研究の進歩には目覚ましいものがありますね。
もちろん,この本の主題でもあるピアニストが持つ数々のものすごい能力,
そのメカニズムに驚かされたのは言うまでもありません。
残念ながら私はピアノは弾けないので,それらを知ることがピアノを演奏される方に
とってどの程度有益なことなのか判断できませんが,きっと知っておいて損はないと思います。
この本を読んで私はピアノを幼少のときに習わなかったことを改めて後悔しました。
しかし,多少始めるのは遅くても楽器をやってきてよかったと思えました。
ピアノを幼い頃から習ってこられた方はご両親に感謝できるかもしれません。
今はまだ楽器をやっていない方でも,音楽が好きな方はこの本を
読むときっとやりたくなると思います。そしてそれには決して手遅れということはない,
とこの本は教えてくれると思います。