同じ雫井 脩介さんの作品で臨場感にとんだ劇場型犯罪をハードボイルドに描いた「犯人に告ぐ」と感動的なラブストーリーをライト感覚で綴った「クローズド・ノート」の丁度、中間のようなタッチの作品。本格派デカものをお好みの方の中にはお気に召さない向きもあるかと思います。
どうやら新宿とおぼしき繁華街のはずれで男がビルの七階から転落死する。その男が貝塚という結構名の売れた情報屋であっただけに本庁捜査1課5係を中心とした帳場が立ち、分署から応援にだされた夏輝がコンビを組まされるのが幼い頃家をでてしまったベテラン刑事である父親という設定。前半はいろいろ差し出がましく刑事としてのイロハを教える父親に主人公の夏輝がことごとく反発するルーキーもののスタイルをとりますが、テレビのコミカルな刑事ドラマのような雰囲気で「犯人に告ぐ」のような切迫したリアル感はありません。
父親が家を出た後、母親も失踪してしまったため夏輝には父親に対する鬱積した恨みつらみがあるのは理解できますが、いわゆるため口というのでしょうか、父親をおい、お前呼ばわりで、それに対して父親が何もとがめないあたりも、すこし不自然な感がします。
後半では5係の長、鍵山が刺されて死んでしまい、夏輝は6係の小出とコンビを組まされ、気の良い情報屋相星に助けられながら捜査に当たります。この謎解きは結構複雑で読み終われば沢山の登場人物たちがそれぞれの登場理由を持って登場してきていることがわかりますし、さすがに雫井さんですから最後にはもつれた事情が一挙に解きほぐされるヤマ場があって盛り上がり、その後のエンディングもなかなか味があります。しかしながら雫井さんが書きたかったのは謎解きなのか、それとも父子の愛憎のもつれなのか、また結構ハードボイルドな内容をここまでコミカルな要素を交えながら描いた理由は何故なのか最後まで良くわかりませんでした。