理想と採算性を共に実現した希有な企業のオーナーが、半生を回顧しつつ、自身の「垂直の庭園都市」論について書いた本。不動産企業は好況だととてつもない利益を上げるが、不況になるととたんにばたばた倒れていく。だが、著者の父の泰吉郎氏はバブル期に世界トップクラスの富豪と言われたにもかかわらず、森ビルはむしろその時代より、遙かに大きなビジネスを展開していて、アークヒルズや六本木ヒルズなど森ビルの再開発の多くが「成功した都市開発プロジェクト」として認知されている。なぜだろうと思ったが、本書を読むと理由の一端が分かる。
森ビルの「ヒルズ」事業は、束ねた土地に自然や文化など様々な魅力を付加してブランド価値を高める。一見、金にはならないが、都市や建物を単なる人の容器ではなく、集まる場所にしたい、という思想を貫いている。居心地の良い都市空間を創ることで、人を呼ぶ。平屋家屋が建て込んでごみごみした路地が、理想の都市に生まれ変わる。その過程が300ページ近い本書の中で、平易にかつ動的に述べられていて興味深い。用地買収は自前でやっていて、著者が先頭になった用地買収の苦労話も楽しく読めるが、都市の価値を高めるには何が必要か、何十年も前から著者が見通していることに驚いた。再開発がうまくいっているのも著者のビジョンが明確かつ正確だったからではないかと思った。
オープン直後の回転ドア死事故後、再発を防ぐためにドアの共同開発までしたとのことである。本書ではドア事故死についても一節が割かれていて、5年過ぎた今も、ある種の宣伝の場である本書において、非を認め反省するというのは、容易そうに見えてもなかなか出来ない。この記述で、再開発やら大家やらとやや否定的な同社のイメージが個人的にはなくなったように感じる。宣伝の意味合いが強い本書自体は☆3つだが、森ビルと著者の考え方への好感を含め☆4つ。