この音源をステレオで鳴らすと、自分の再生機器が数段よくなったように感じる。
それほど飛び抜けた音質で、美音を奏でるヒラリー女史。
山間の谷間で湧き出た清水に触れているような純粋な音の連続。それをバッハ音楽の演奏で実感する。
通常、大バッハに付きまとう、厳格、プロテスタント信仰、音楽の父云々といった形容とはまったく無縁のみずみずしさ。
これまで、なんとかバッハの音楽に親しめたらと思い、グレン・グールド、ヨーヨー・マ、ロストロポービッチ、
パールマン、クレーメル、アルゲリッチ+ミーシャ・マイスキーなどの演奏を聴いてみたが、
自分との距離感は広がったままだった。無伴奏も、ブランデンブルグもトッカータとフーガも、だめだった。
唯一、ブーニンが弾くバッハが聴くことのできるバッハで、近年これにヒラリー・ハーンと、
アンナー・ビルスマーのチェロ、ヴィクトリア・ムローヴァの無伴奏、マリア・ティーポの諸演奏などが加わり、
ゴルトベルク変奏曲もやっと身近になった。バッハの音楽は、自分にとっては、
時間をかけてゆっくりと近づいていくものらしい。