人間行動を情報学・認知科学から研究する工学博士による書。日常の場や職場を問わず、人の行動が一因となって発生すると考えられるトラブルについて、詳細に分析し、対処法を紹介している。220ページを7章にわけ、ヒューマンエラーの定義、原因、解決法、予防法、実践例と応用問題などが順序よく解説されている。文字の大きさや幅なども配慮されていると同時に、難しい統計などはなく、ふんだんに使われる図や写真も平易なものばかり、ほとんどの説明には具体例があると同時にフレーム問題やウェインの4枚問題などもわかりやすく紹介されている。広い読者層が対象で、数時間あれば読破可能。
結論から述べると、本書は傑作であり、色々な意味で著者はレベルが高いと思う。多様な社会で起こるトラブルを科学的に、適切に分類することはきわめて困難である。したがって、このようなタイトルの書は相当に完成度が高くなければ本来の目的(啓蒙しエラーを減らす)を達成することはできない。どんな読者にもすべての内容が理解できること、きちんと論理立てて根拠を持って説明することの双方を満たす困難な作業を本書では達成している。ヒューマンエラーは知識や情報に穴があることによって発生するし、全員が同じ理解を有することも必要である点を本書の構成や文章から伝わってくる。また、効率と利益のジレンマなど評価が多岐にわたるために単純に統計学などで語るべき物でもないことにも留意されている。また、徒然草など古来より記述されている教えについても紹介されており、先人の遺した知恵についても目から鱗が落ちる。また、「自分の内側から知る」など多くのすばらしい言葉がさりげなく使われている。
書の目的を第一に考えると、本書の完成度は極めて高い。科学性を追求したり、より詳しく勉強したければ、個々の項目を独自に調べたり紹介されている書を参照するとよりよいと思う。文句なく星5つ、ヒューマンエラーに関してはまず本書から入ることを勧める。