ナチスドイツの興隆から滅亡に至るまでを、ヒトラーが握っていた『権力』の量と質の変化に着眼点を置いて分析した一冊。
大衆の不満を取り込んで政治の世界に足を踏み入れたヒトラーは、本人の資質によらずナチスに非好意的な保守的エリートの「操り人形」としてドイツ首相の地位に着く。その後、ヒトラーの持つ『権力』はナチスドイツ崩壊の日まで膨張し続けた。それは雪山を転げ落ちる雪玉のような有様だった。
しかし、この『権力膨張』は単にヒトラー個人の資質によるものではなかった。ヒトラーの『権力』が大きくなればなるほど、そのおこぼれに預かれる人々との数と、彼らが受けた恩恵は巨大なものとなった。ヒトラーの権力が雪だるま式に膨張したのは、ヒトラーに一蓮托生した多くのドイツ人の存在があったのである。
しかし、彼らが得た利権とは、ナチスが破壊し解体した旧体制の残骸に過ぎなかった。急激に膨張するヒトラーの『権力』は、その権力を維持するためにヒトラー唯一人をあらゆる政治・経済・軍事、あらゆる行為の最高責任者にする必要があった。そのために、それまで存在した官僚機構や軍の命令系統、産業界のつながりや個々人のつながりまで、全てはヒトラーの『権力』を維持するために破壊された。
ヒトラーという雪だるまは止まる事を許されなかった。雪だるまが回転と膨張を止めるとき、それはヒトラーという雪だるまそのものがより大きな障害にぶつかって砕け散るか、巨大に成りすぎて自壊するかの二者択一だった。そして現実のナチスドイツはその両方の結末を迎える事になる。
しかし、その責任をヒトラー一人に帰する事はできない。ヒトラーに『権力』を与え、その恩恵に浴し続ける決断を下したのは他ならない大多数のドイツ人自身だったためだ。