「アブナイ」議論を仲間内でこっそり楽しんでいるところに、「それは一昔前の議論ですよ。」などと水をぶっ掛けるのは野暮だろう。
しかし、出版物は天下の公論。
新書は研究書ではないが、少なくとも日本語で読める比較的最近の研究成果があるのなら参照すべきではなかっただろうか。
ナチス経済政策については、大不況からの回復にはほとんど関係がなかったことが定説になりつつあると思われる。
景気回復の開始は1932年晩夏からであるし、反事実仮想によるシミュレーション結果は「ナチ政府による積極的な介入政策がなかった場合」と現実のデータとの差異を認めない。農業の生産性は下がったし、成長の果実の分配は不平等で、非独立営業者の所得や生活水準は低下した。通貨価値が減少したために成長率自体が過大評価された可能性もある。
本書の主張に対して補強的な議論としては、30年代の政策的失敗によるデフレがドイツでは回避されたこと(要するに、目だった間違いはなかったこと)、軍需産業の成長が顕著であったこと、・・・・・・などであろう。だがこれらも一般国民の消費の抑圧を代償としていることは考え合わせるべきであろう。
武田氏の主張(?)は、ブレヒトの戯曲の一節
Erst kommt das Fressen, dann kommt die Moral
に尽きるのだろうが、
モラルが無くなればやがて結局は飯も無くなってしまう
ことこそがナチス・ドイツの経験から私たちが学ぶべきことだと
言われていたのではなかったか?