今年2011年は辛亥革命100年、満洲事変80年、ソ連崩壊20年、9・11事件10年と節目の多い年であった。一般には知られていないが20世紀の巨悪人の一人ヒトラーがナチ党党首に就いて90年でもあった。これを期して本書はヒトラーを支えた側近たちの実像に迫りその歴史責任を問う意図で上梓された(らしい)。
確かに初学者にとっては無名の側近たちを知るよい機会にはなる。旧友、若き従者、先輩、後援者(パトロン)、ミュンヘン一揆に際してヒトラーの命を救った同志、安楽死政策の実行者も身辺護衛官も最後の電話番も。
ところが、側近中の側近についての記述には多くの問題がある。ナンバーツーであったゲーリングがヒトラー同様一級鉄十字章を受けた勇士と書くならば(p104)、有名な第一次大戦の戦闘機パイロットエースで一般軍人の最高武勲章プール・ル・メリット勲章受賞者であることを加えなければ片手落ちであろう。カナリス海軍提督がポーランドで起きた虐殺に抗議したときは中将であったし元帥に昇進したことはない(p138)。ハルダーは単なる参謀将校ではなく陸軍総司令部参謀総長(p142)。ヘスが英国に向かった航空機はメッサー・シュミットではなくひとつの単語メッサーシュミットだし、3万3千機製造したのは主力戦闘機Me109一機種だけの数値、他の機種を合わせればそれ以上になる(p145)。アルデンヌ作戦参加兵力20万余、戦車6千台も根拠ある数値なのか(p171)。また軍事顧問と記されている国防軍最高司令部作戦部長のヨードルは大将(p171)とも元帥(p213)とも書かれているが正しくは上級大将。フェーゲラインSS中将はSS長官代理であるはずもなく総統・長官連絡将官にすぎない(p202)。さらにデーニッツは海軍元帥だったが大元帥ではない(p207)。
人名の表記は現地発音に忠実であれとの主張もあり簡単ではないが、本書は専門書ではなく初学者むけの啓蒙書であるのだから、ロムメル(p153)、シュペー(p159)、モデル(p189)と表記するのはいかがなものか。普通にロンメル、シュペーア(シュペール)、モーデルとして不都合があるだろうか。参考資料を検索するのが手間である。
一方、人物像を描くのに際して極めて文学的であるのが印象的である。「若いときから礼儀正しいヒトラー」(p23と48)、「飼い主を求める野良犬のようにさまよっていた」ゲッペルス(p56)、「彼女を求めにくるその瞬間を待つために存在している」エヴァ・ブラウン(p101)のように。わかりやすくていい感じの表現なのだが。
大甘でギリギリ三ツ星評価。