本書は、神経心理学をご専門とされ、失語症を中心にした高次機能障害を
中心に研究されている著者が、脳の科学の観点から、「ことば」と「心」
という非常に難しいものに迫った本である。
本書の構成としては、1章で「ことば」とはどのような性質をもつものか、
主として言語学的な知見から解説している。2章では様々な失語症の症例
を紹介し、3章ではそういった失語症を脳の科学の観点から分析すると
共に、脳と言語機能についてふれている。最後の4章では、「心」という
複雑なものに対して、脳の働きや機能から分析を加えている。
個人的には、本書の分野に対しての勉強不足もあり、ウエルニッケ、ブロカ
失語しか知らない身としては、2章で紹介されている他の失語症状や受容性
の失語症状を読むだけでも非常に勉強になった。
そして、4章においては、「心」を「識→情→知→意」と定義づけ(p. 160)、
その根拠を脳の働きから分析する部分には食いつくように読み進めた。
心とは1つの実体などではなく、複雑な構造をもったものだ、という著者の
主張が説得力を持って展開されている。
本書では、様々な文献にふれながら書かれているが、新書用にかなり簡略に
概略的に研究成果を紹介している様子が窺え、専門家やこの分野に造詣が
深い方には物足りなく感じるかもしれないが、ズブの素人の私には難しく
感じる箇所が少なからずあった。
読む対象によって評価が分かれるかもしれないが、新書として概略的に
知るためには十分な内容であると感じる。