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それでもこの手の論文集としては、かなりよくできていることは間違いない。このような複数の書き手によるアンソロジーの場合は寄せ集め的で焦点が曖昧になりやすいものだが、本書に関してはジジェクのラカン派マルクス主義とでもいうべき理論を核に構成されているからか、それぞれの書き手の軸にブレがない。その点では全体がよく統一されている。ただ、作品論で『裏窓』に関するものが少なくとも3篇はあり、どれも同工異曲であるという印象は否めない。まあみんな言っていることがバラバラなのよりはましだが。
あと一つ、本書を読んでの疑問であるが、ジジェクにしても他の書き手にしても、ヒッチコックの「視線」「まなざし」を問題化しているにも拘らず、映画的「視線」にまつわるジェンダーの非対称性についての言及がほとんどないのはなぜか。これこそがローラ・マルヴィの歴史的論文「視覚的快楽と物語映画」でヒッチコックについて指摘された問題であり、その後テレサ・ド・ローラティスがこのマルヴィの論を批判的に継承して提唱した、「視線に内在する快楽/欲望の二重性」として提出したテーゼである。この点に、少なくとも本書では十分な回答がされていないということは、ジジェク/ラカンの言説がまだ家父長的制度から完全に自由ではないことを示しているのだろうか。
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