太平洋戦争が激化する中、日本本土爆撃の任務を終えた米国爆撃機が、
中国に墜落し、乗員8人が日本軍に捕らえられる。ハーヴェイ・ロス大尉(ダ
ナ・アンドリュース)以下8名は、東京で民間人を巻き込んだという理由で、
日本の民事裁判で裁かれることになる。四面楚歌の状況の中、ロスはジュ
ネーヴ条約違反だと主張するが、裁判は、ミツビ将軍(リチャード・ルー)の
思うように動かされていた。挙句、ミツビは、捕虜を一人ずつ呼び寄せて、
拷問によって空母の居場所を吐かせようとするのだが…。
1942年のドーリットル空襲で、日本軍の捕虜になった8人の米国兵士が、
死刑判決を言い渡された史実を大まかに基にした戦争ドラマ。クレジット
上に原作者として表れるメルヴィル・クロスマンは、製作者ダリル・F・ザ
ナックの別名。題名の「パープル・ハート」とは、米国の敵国との戦いに
より負傷、死亡した兵士に授与される勲章のこと。劇中の日本人役は、
全員中国系の俳優で固められている。日本劇場未公開作。
アメリカ国内の民間人に向けては、反日プロパガンダとして、また、従軍
している兵士に向けては、教育的役割を担ったのが本作だろう。つまり、
本作の目的は、民間人には、「いかに日本人が残虐で、米国兵士は気高
いか」、兵士には、「いかなる状況でも、機密事項を口外してはいけない」
ということを示すこと。そういった面では、確かに、プロデューサー、ザナッ
クの製作意図と初期に兵士向けの教育映画を撮っていたマイルストンの
経験が最大限に生き、成功している作品だ。もっとも、日本人から観ると、
(当時の米国感情の正直な反映とはいえ)あまりに、日本人が酷薄に描か
れていたり、中国系俳優のデタラメな日本語(敬語が一切なし)やおかしな
描写で占められていたり(裁判中にコレヒドール陥落の知らせを受けた日
本兵が、刀を振り回して、歓喜の舞いを踊るシーンの滑稽さ…)して、失
笑してしまう場面が多いのも確か。劇中、ダナ・アンドリュース扮する大
尉が、「我々アメリカ人は、君ら(日本)を良く理解していないが、それ以上
に、君らも我々アメリカ人のことを理解していないぞ」と声高に叫ぶが、そ
のセリフは、皮肉ではなく、本作の日本人の描写にそのまま当てはまっ
てしまうのだ。残念ながら、現在の目では、不正確な部分があまりに多
い珍作と言ってさしつかえないと思う。
ただし、演出を『
西部戦線異状なし 完全オリジナル版 【ベスト・ライブラリー 1500円:アクション映画特集】 [DVD]』
のルイス・マイルストンが担当しているだけあって、作品の持つ緊張感あ
る雰囲気が素晴らしく、その点は素直に評価しなくてはならない。戦争ド
ラマといっても、実際は、戦場場面は出て来ず(フラッシュ・バックで、爆
撃機が墜落する場面のみ)、全編、裁判劇。その設定上、必然的に、空
間的にも心理的にも密室演出にならざるを得ないが、マイルストンは、
直線を組み合わせた冷厳な裁判所のセット、陰影深い照明を巧み使っ
て、逃げ場のない8人の兵士の重苦しく、救いのない心情を視覚的に表
現する画作りに腐心している。夜な夜な一人ずつ拷問、尋問される兵士
が、機密を自白したのではないか、と思わせるサスペンスの醸成も上手
い。ダナ・アンドリュース、リチャード・コンテ、ファーリー・グレンジャーら
は、そのマイルストンの演出に応え、静かながら芯の強さを感じさせる
演技で、軍人らしい(あまりに気高く、英雄的ということがあるものの)真
実味を出している。
本DVDは、35mm原版よりテレシネ、レストアされたマスターを使用。パ
ラ(細かいキズ)がある箇所もあるが、全体的には、白黒の諧調も良い画
質だ。音声も特に問題はない。特典には、映画評論家リチャード・シッケ
ルによるコメンタリー、予告編、フォト・ギャラリーが収録。