冷戦下、米国とソ連との間で激しい諜報戦が行われていた時代を背景に、非情なスパイの世界が描かれる本作は、かねてから評価の高い、スパイ小説の傑作の一つです。
ソ連KGB内部に潜む米国の二重スパイ“パンドラ”。その正体を暴く文書がKGBの手に落ちかけたとき、運命のいたずらから、若いフランス人女性シルヴィーの手にその文書が渡ります。理由も分からずKGBに追われる身となったシルヴィーが、ついに捕らわれようとしたその瞬間、謎の米国人男性ジェームズが現れ、窮地を救います。逃避行を共にすることとなった2人は、否応無しに米ソの謀略の応酬の渦中に身を投じることになります。
この作品は、古典的な「巻き込まれ型スパイ小説」の体裁を取りつつ、ソ連のブレジネフ共産党書記長やアンドロポフKGB議長という実在の人物を登場させるなど、執筆された当時の時代状況を巧みに反映させています。また、米国CIAやKGBの組織間の非情な戦いを描いた謀略・情報小説の側面もあり、さらに、共にトラウマを抱えたジェームズとシルヴィーが、逃避行を通じてそのトラウマを克服するという冒険小説の側面もあります。
ソ連の崩壊により冷戦が幕を閉じて早20年近く経ちますが、本作は時代が変わってもその面白さは変わらない素晴らしい作品です。