一気に読み終えました。ゾウの解体でいきなり「遺体科学」の現場へと読者を導いていく構成も、歯切れのいい短文でその模様を描写してゆく文章も秀逸です。
著者は長年博物館(現在は京大霊長類研)で動物の遺体を収集、解剖等によりその謎を解き明かしてきた研究者。第2章「パンダの指は語る」で語られるパンダの7本目の指(擬指)の世界で初めての発見がやはり本書の山場と言えるでしょう。
著者は語ります。「CTやMRIは骨格や筋肉のかたちや働きを示してくれる重要な手段」、しかし「発見の重要な部分」は「起こっている事実をち密に解釈してゆく学者の“目”によって見出されてゆく」のだと。この“目”の有無は遺体の謎を解こうとする意欲の強さによって決まるとするところ、「セレンディピティ」という言葉を地でゆく感がします。
著者は繰り返し無制限、無目的に遺体収集することの重要性を説き続けます。大半の人にとってそれは生ゴミにしか過ぎない、だが遺体はその体のメカニズムを教えてくれるばかりでなく進化学、生態学、古生物学等々動物に関わるあらゆる分野で活用されることを待っている未知のデータが集積された場所である。この言わば全研究者さらに全人類共有のデータベースをそのまま後世に伝えるためには、骨格・剥製標本だけでなく軟かい組織も残せるホルマリン漬けこそ望ましい。大型獣を漬けることのできる25mプールが一つでもあれば・・・
このように夢見る著者は諸外国での博物館と比較し日本の学界全体が遺体を保存しようという意欲に乏しいことを嘆きます。しかし年間数十万円の低予算とメス・ノギスといったローテクな道具で実績を積上げる奮闘ぶりを見れば、誰もが首肯するでしょう。久々に熱い一冊でした。