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パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い
 
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パンとペン 社会主義者・堺利彦と「売文社」の闘い [単行本]

黒岩 比佐子
5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (14件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容説明

弾圧の時代、社会主義者たちは「ユーモアと筆」の力で生き抜いた。
堺利彦の素顔に、文学から光をあてる画期的試み。長編ノンフィクション誕生!

行き場のない社会主義者たちに生計を立てるための会社をつくり、交流の場を用意し、若者を教育したのが、
「日本社会主義の父」と呼ばれる堺利彦であり、その器が売文社だった。
寄る辺なき運動家たちを家族として迎え、また、明治の男には珍しい妻思いのフェミニストだった。
そんな堺の武器は筆とユーモア感覚。
その文才は、夏目漱石、森鴎外に注目され、尾崎紅葉、有島武郎、宮武外骨との親交、松本清張との意外な接点も。
筆の力を十二分に発揮した売文社は、大逆事件が起きた百年前に誕生した日本初の編集プロダクションかつ外国語翻訳会社だった。


<堺利彦のキャッチフレーズいろいろ>
社会主義者で投獄された第一号
女性解放運動に取り組んだフェミニスト
海外文学の紹介者で翻訳の名手
言文一致体の推進者
森鴎外に短篇小説を認められた平易明快巧妙な文章の達人
そして、軍人に襲われて暗殺されかけ
関東大震災では憲兵隊に命を狙われた男


【著者略歴】
黒岩比佐子(くろいわ・ひさこ)
ノンフィクション作家。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒。
『「食道楽」の人 村井弦斎』で第26回サントリー学芸賞、『編集者 国木田独歩の時代』で第6回角川財団学芸賞を受賞。
主な著書に『音のない記憶―ろうあの写真家 井上孝治』『伝書鳩―もうひとつのIT』『日露戦争―勝利のあとの誤算』
『明治のお嬢さま』『古書の森 逍遙―明治・大正・昭和の愛しき雑書たち』など。

内容(「BOOK」データベースより)

夏目漱石から松本清張まで多くの作家との意外な接点。日本初の編集プロダクションかつ翻訳会社を率いて「弾圧の時代」をユーモアと筆の力で生き抜く姿。社会主義運動家に文学から光をあてる画期的試み。

登録情報

  • 単行本: 450ページ
  • 出版社: 講談社 (2010/10/8)
  • 言語 日本語
  • ISBN-10: 4062164477
  • ISBN-13: 978-4062164474
  • 発売日: 2010/10/8
  • 商品の寸法: 19.5 x 14.5 x 3.5 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (14件のカスタマーレビュー)
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73 人中、69人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By 無堰
黒岩比佐子の最新作『パンとペン』は、村井弦齋(サントリー学芸賞)、国木田独歩(角川財団学芸賞)と続く「明治・大正」モノの第三作目にあたり、堺利彦に新しい光を当てた大作である。
私が密かに「スッポンのおひさ」と陰で呼ぶ、テーマに食らいついたら放さない彼女の真骨頂がますます発揮された一冊だ。

いうまでもなく堺利彦は日本の初期社会主義者として、幸徳秋水らと『平民新聞』を創刊し、日露戦争反対の論陣を張り、赤旗事件で下獄していたおかげで「大逆事件」(1910)での処刑を免れ、関東大震災(1923)の折にも第一次共産党事件で市ヶ谷刑務所に収監されていたため大杉栄らが被った憲兵隊の虐殺から難を逃れている。
同志たちの難死にたいして堺は「畳」の上で死んだ。

黒岩は、後世から忘れ去られかけているこの社会主義者がもつ生活者としての力強さと優しさ、さらにたぐいまれな文筆力と編集能力に並々ならない愛着をもって「堺利彦を発見」した。

私がとくに強く興味を引かれたのは、章頭に置かれた堺利彦の様々な写真である。その村夫子然とした風格は、理よりも情の、ロジックよりはレトリックの極めて魅力的な風貌である。幸徳秋水や大杉栄の写真を見た目には、これが堺利彦か、とおもわず唸ってしまった。

黒岩は、大逆事件から始まる社会主義者弾圧の「冬の時代」に堺利彦が興した「売文社」と名付けた、今でいう「編集プロダクション」の原形のような組織を中心のテーマに据えている。

表題の「パンとペン」は堺が「ペンを持ってパンを求むるは僕らの仕事である。(中略)しかし僕らには又、別にパンを求めざるのペンもある」という「売文社」の立場表明から取っている。

堺は、思想弾圧で仕事にも就けず、生活に困窮する同志たちに「職」を創り出した。大杉栄、荒畑寒村、高畠素之、山川均……。売文社に出入りした巨大な人脈は、アカデミズムとはほど遠い明治大正期の知識人や出版界の群像であり、またその離合集散は、社会主義思想の内部論争の一端を鮮やかに浮かび上がらせている。

「革命」を巡っての堺利彦(マルクス)と大杉栄・荒畑寒村(クロポトキン)の分派、さらに深刻なのは、共同経営者であった『資本論』の翻訳者・高畠素之の国家社会主義への接近である。この事件で「売文社」は解散することになる。

いずれにしろ、黒岩比佐子の筆に掛かると巨大な底引き網のように、明治大正の多彩な魚群が掛かってくる。

あとがきに、黒岩さんはご自分がガンに侵されていることを書かれている。
是非とも寛解され、『坂の上の雲』ではない明治大正期の人間群像をもっともっと書いてほしい。
このレビューは参考になりましたか?
55 人中、52人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By ろこ
 日露戦争が始まる前、社会主義者の堺利彦が親友の幸徳秋水と共に「平民社」を創設し、反戦運動を唱えたことは教科書で習い、知っている人は多い。
 しかし、「平民社」は知っているが「売文社」という名前とその存在を知っている人はどれぐらいいるだろうか。
 「売文社」は堺利彦によって作られたものである。「売文社」は大正期の社会主義運動の「冬の時代」と呼ばれる官憲の弾圧を耐え忍ぶ拠点であった。生計を立てるための組織であり、同士たちの交流の場であり、若者たちの教育の場であった。
 「平民社」が二年あまりで解散になったのに対して「売文社」はあの厳しい弾圧の時代に八年三ヶ月も継続したとは驚きである。
 では「売文社」とは何か?その活動の様子、具体的な実像、内部ではどんなドラマがあったのか、そして堺利彦とはどんな人物であったのか。それを掘り起こしたのが黒岩比佐子である。黒岩はおびただしい資料や古書を買い集め、取材し、それらを平易明快な文章にし解き明かしたのである。
 つまり、これまで歴史の裏側に埋もれて見えにくかった事実、忘れられた人や誤解された人を掘り起こし、「売文社」の全体像と堺利彦という魅力的な人物に迫ったのが本書なのである。
   
 本書を見た人は十中八九その表紙に目を奪われ思わず手に取ってしまうだろう。セピア色の写真。三人の人物の顔に釘付けにされてしまうのだ。黒紋付の羽織の男。暗い目をした意志の強そうな女性。真ん中に七五三の晴れ着を着た幼いながらも鋭いまなざしの女の子。
 これは堺利彦が出獄後、「売文社」の看板をあげた家の前で、妻為子と、娘の真柄の七五三を祝った記念写真だ。
 次に目を引くのが表題となっている『パンとペン』の文字である。
 この「パンとペン」こそは「売文社」が旗印として掲げるものなのである。商標は「食パンに万年筆を突きさした画」。一回見たら忘れられないユーモラスな商標だ。
 堺は「僕らはペンを以ってパンを求めることを明言する」と謳った。
 つまり人間は食べなければ生きられない。その食べるための手段として文章を書くこと、パンを得るためにペンを使うことを堺利彦は「売文」と表現し宣言したのであった。
 売文社の社員には、大杉栄、社会主義者の荒畑寒村、山川均、高畠素之、尾崎士郎がいる。
 堺の親友だった幸徳秋水は大逆罪で絞首刑になった。大逆事件で死刑になった十二人は捏造された(フレーム・アップ)証言や証拠で死刑に処せられたのであった。しかし、堺や大杉、寒村、山川らは「赤旗事件」で投獄中だった為、難を逃れた。
 処刑された多くの仲間たちのむくろは堺がひきとり火葬した。地方にいて名前を変え、息をひそめていた家族を探し出し遺品と遺骨を届け、慰め励ましたのは堺であった。激しい思想弾圧と尾行にも屈せず遺族を探し慰めた堺という人物には胸が熱くなる。
 堺は「ペンとパン」を商標に「編集プロダクション」「翻訳エージェンシー」の元祖ともいうべき「売文社」を立ち上げた。それはあたかも大石内蔵助が世をあざむいたように「猫をかぶって」機の到来をうかがう八年三ヶ月であった。
 
 ここで黒岩が注目し掘り起こしたのは「売文社」における仕事である。堺は歴史書ではとりあげられたが、文学の世界ではまったくとりあげられなかったのである。そこに黒岩は注目したのであった。
 つまり今まで誰も書かなかった明治から大正ジャーナリズムにおける堺利彦とその業績が本書ではじめて明かされるのである。
 私たちが映画やミュージカルでおなじみの「マイイフェアレディ」の原作は「ピグマリオン」。バーナード・ショーの作品である。バーナード・ショーの作品の翻訳を手がけた先駆者が堺であったとは特筆すべきことである。そのほか、チャールズ・デイケンズ、アレクサンドラ・デュマ、エミール・ゾラ、ウイリアム・モリス、ジャック・ロンド、モーリス・ルブランの「ルパン」を翻訳。マーク・トウェインの作品のうち短編二つを堺が訳していることはほとんど知られていない。
 十八歳から作家デビューして以来、尾崎紅葉、夏目漱石、有島武朗、に至るまで多くの作家との交友があったことも驚きである。
 (一)「言文一致体の普及」に貢献。(二)平塚雷鳥より六年も前に婦人論を述べ、日本の婦人解放運動の先駆者だったこと。(三)日本一のユーモリストであったこと。
 など、黒岩は次々と掘り起こし、解き明かし、読者の目からうろこを落とさせた。

 堺利彦はその生涯で多くの友人や支援者に支えられた。それは「人を信ずれば友を得、人を疑へば敵を作る」という生涯の信条からもうかがえる。
 また「堺は如何に困窮した場合でも我を忘れてよく後進の面倒を見、道を開いてやることを忘れなかった」という友人の言葉が「売文社」での事業と堺自身の人柄を表わしている言葉である。

 幸徳秋水はいつもそばに堺がいたからこそ、カリスマとして存在した。
 これは堺が好んで口にした言葉「棄石埋草」(すていしうめくさ)にも通じるのではなかろうか。堺利彦の実蹟が今日こうして黒岩の手によって明かされることがなければ、讃えられることもなく、人々の記憶から消えてしまう、まさに「棄石埋草(すていしうめくさ)となったであろう。

  最後に手に入りずらい古書や資料を探しだし、終日足を棒にした黒岩に「古書の神様」がご褒美をくださった事件があった。それは東京古書会館での古書即売会で起きた。「麺麭(ぱん)の略取」の偽装本の発見である。発禁本の「麺麭の略取」に誰かが『武士道』の表紙をつけて偽装したものだ。いわくありげなこの珍本を掘り出した黒岩には「古書の神様」がついているに違いない。心の中で歓声をあげたであろう黒岩の顔が目に見えるようで思わず頬がゆるむ。

 ※黒岩さんがこの作品を三年余りの年月をかけて書いた渾身を思った。「あとがき」で全体の五分の4まで書き進んだところで、がんを宣告されたことを吐露されている。病魔との闘いに調べたくとも行けなかった多くの場所にどれだけ歯噛みをしたことだろうと思うと胸がつまる。
 しかし、作品は「全力を出し切ったという清々しい気持ちでいっぱいだ」と黒岩さんに言わしめるだけの充実ぶりであることは言うまでもない。

 これまで歴史の裏側に埋もれて見えにくかった事実、忘れられた人や誤解された人を掘り起こし、「売文社」の全体像と堺利彦という魅力的な人物に迫った本書。黒岩さんの渾身の作として読者の心に長く残ることを確信する。多くの人と、この読後の充実感を分かち合いたいものである。
 黒岩さんの体調の快復を心より祈り次回の作品を心待ちする次第だ。
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14 人中、13人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
死の代償を払わなければ自己の思想を表わせなかった時代、明治、大正、昭和の軍国政治の中で、激しく死んでいった人もいた。堺利彦は、その人たちとの交情の中で自己独特のポイントを守りながら、弾圧の世界を生きていった。堺利彦を再認識させてくれる著者の着眼はすばらしい感性である。著作途中で発覚したガンという病に打ち勝ったと言えるかどうかわからないが、この書を最後まで仕上げた生きざまに迫力を感じた。この時代が弾圧の時代で、今が平和だと思う人にはこの書の理解はなかなか難しいだろう。小沢一郎が何故に罪に問われ、同志から銃を突きつけられているのか・・・今まさに問題視されている政治状況がまさに戦前の弾圧史につながっているのが見えてくる。徳川の鎖国から幕末の異国船来航、明治の近代化、侵略、軍国化、思想弾圧、戦争、敗戦、アメリカ従属、経済破綻、外交の失敗・・・日本近代史の「貧しさ」を救う多くの人たちがいたのに、彼らを抹殺しながら進んできた日本の近代史、この著作は歴史の裏側を学ぶ一筋の光である。昨年死去された著者にに心から哀悼の意をささげます。著者の参考文献になかったが、宮本研の戯曲「美しきものの伝説」もお薦めしたい。
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