ものごとを単純に理解したがる人は、パレスチナ問題と聞くと「ユダヤ教徒とイスラム教徒の対立だ」などと、ものすごく不正確なことを言いたがりますが、そんな問題じゃないということだけは、私もおぼろげにわかっています。が、じゃあ、いったい何なのかとなると、正直言ってわからないのです。
この本は、パレスチナに生まれて、暗殺の犠牲になった政治風刺画家の画集ですが、解説つきで鑑賞してさえ、私には実感としては理解できない絵が、たくさん含まれています。それだけに、パレスチナ問題とは、幾重にもねじれた問題であって、これを解きほぐして理解するには、謙虚に勉強する必要があるんだということを、教えてくれる本でもあります。
学ぶきっかけとして、また、いくらか勉強が進んだときに、整理しなおしてみるために、この本が役に立つのではないかと思います。
それからもうひとつ、ついでに言っておくと、私は「英語ができさえすればグローバル」という風潮には抵抗を覚える人間なのですが(これは多分に、英会話ができない人間のひがみでもあることは、否定しませんけれど)、それは、英語で世界の情報を集めようとすると、知らず知らずに「英語帝国主義」の推進役であるUSAのWASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)の価値観のフィルターを通した情報が主として集まってくることになり、そのフィルターがもつバイアスに無自覚なまま「自分の集めた情報はグローバル」と思いこむことは、危険だと、思うからなのです。
本書の訳者は、わが国の最高レベルの英語教育を受け、プロテスタントの名門ミッションスクールの英語の先生をしている人なので、その英語力は折り紙つきですが、それだけに、WASP的価値観に侵される危険性にも始終身をさらしている人だと思います。それだけに、とかくシオニストの側の情報ばかりが出て来やすいこのパレスチナ問題という厄介な問題に関して、英語情報の中から反対の立場の人の情報を掘り起こしてきた訳者の注意深さには、敬意を表したく思います。