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パル判事――インド・ナショナリズムと東京裁判 (岩波新書)
 
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パル判事――インド・ナショナリズムと東京裁判 (岩波新書) [新書]

中里 成章
5つ星のうち 3.9  レビューをすべて見る (10件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容紹介

東京裁判でA級戦犯被告全員の無罪を説いたインド代表判事パル(1886-1967)。その主張は東京裁判を「勝者の裁き」とする批判の拠り所とされ、現在でも論争が続く。パルの主張をどうみるか。その背景に何があるのか。インド近現代史を専攻する著者が、インドの激動する政治や思想状況の変遷を読み解きながら、「パル神話」に挑む。

内容(「BOOK」データベースより)

東京裁判でA級戦犯報告全員の無罪を説いたインド代表判事パル(一八八六~一九六七)。その主張は東京裁判を「勝者の裁き」とする批判の拠り所とされ、現在も論争が続く。パルの主張をどうみるか。その背景に何があるのか。インド近現代史を研究する著者が、インドの激動する政治や思想状況の変遷を読み解きながら「パル神話」に挑む。

登録情報

  • 新書: 256ページ
  • 出版社: 岩波書店 (2011/2/19)
  • ISBN-10: 4004312930
  • ISBN-13: 978-4004312932
  • 発売日: 2011/2/19
  • 商品の寸法: 17.2 x 10.6 x 1.6 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 3.9  レビューをすべて見る (10件のカスタマーレビュー)
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東京裁判から60年以上が経過して今なお激しい論争の渦中にあるラダビノド・パル。著者は、歴史研究の方法論に基づいて、その実像に迫ろうとする。結論から言うと、本書は、戦後のある時期から一部の保守勢力によって捏造されるようになったパルの「偶像」と「神話」を完膚なきまでに叩き壊すことに成功している。そのように考えられるのは、本書が以下の3つの点を説得的に論じているからである。

第一に、いろいろな意味で適性に問題があるにもかかわらずパルが東京裁判のインド代表判事に任命されたのは、植民地政府による事務手続き上の手違いによるものであったという点である。したがって、「ネルー首相の懇請と期待に応え」(田中 2001)るべく就任したとか、「このひとのほかはないというインド朝野の輿望をになって」(一又 1966)東京裁判に臨んだなどといったこれまで流布してきた俗論はまったくの誤りであることが明らかにされる。

第二に、東京裁判におけるパルの意見書は彼の政治的志向を色濃く反映したものであり、公正公平なものであるとは到底言いがたいという点である。具体的には、パルがインドの独立前の時期にヒンドゥー大協会とチャンドラ・ボーズの周辺に位置していたことを考えると、大東亜共栄圏を掲げた日本の戦争指導者を無罪であるとする意見を表明したことや一貫した反共的な態度をとったこと(特に、インドと同様に植民地主義の被害者であるはずの中国に対する批判的な姿勢)は驚くに値しない。

第三に、親米派として復権を果たした保守勢力にとっては、「逆コース」と高度経済成長の流れに棹差しながら米国に対する批判と自己正当化をする上で、パルの存在はこの上なく好都合であったという点である。だからこそ、インド国内では「小者」にすぎなかったパルをインドを代表する偉大な思想家・哲学者であるかのように針小棒大に取り上げて、彼の判決の正当性を高めようとしたのである(純粋にパル判決の内容を問題にするのであれば、ネルー首相の懇請と期待に応えるべく就任したとか、インド朝野の輿望をになって東京裁判に臨んだなどといった嘘をついて、パルに箔をつける必要はないはずである)。

なお、著者は、中島岳志氏の本について7ページにわたる詳細な書評を書いている(『アジア経済』2008年8月号)。本書の内容から容易に想像できるように、パルは熱烈なガンディー主義者でもなけれは、絶対平和主義の信奉者でもなく、中島氏の議論にはまったく根拠がないと極めて批判的な評価を下している(しかし、書きぶりは驚くほど冷静)。また、本書執筆の背景については、『アジ研ワールド・トレンド』2011年10月号に掲載されている「『パル判事』を上梓するまで」を参照。興味のある方は、参考にされるとよいだろう。

最後に一点。「偶像」と「神話」を作り上げて、それを自分の都合のいいように利用しているのは何も保守勢力ばかりではない。例えば、佐藤卓己『言論統制』(中公新書)が明らかにしているように、鈴木庫三少佐を残虐非道な「小ヒムラー」に仕立て上げることによって、戦争に積極的または消極的に協力した自分の過去を正当化しようとした言論人や報道関係者が多数存在した。著者には、この点への目配せが欠けているのではないだろうか。
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21 人中、15人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By 革命人士 トップ500レビュアー
東京裁判のインド代表判事として、被告人全てに無罪判決を宣告したパル判事の生涯と、いわゆる「パル判決文」の日本における受容の歴史を描いている。本書の内容は一般に流布されている「平和主義、ガンディー主義者としての博愛の心に基づく無罪判決」など、日本にパルを紹介した田中正明が作った偽りのストーリーを、パル判事の息子やベンガル地方の法曹界指導者への長時間にわたる聞き取り調査や現地語公文書や新聞などの一次資料からことごとく否定した。

本書によると、独立時のどたばたで手違いでパルに判事への要請書が来たという。また戦時中、国民会議派が日本を激しく批判つつも宗主国の英国にも厳しく弾圧されていたにもかかわらず、パルは戦時中カルカッタ大学副総長やカルカッタ高裁の代理判事などの顕職を歴任していたことから、同じカルカッタを拠点としていたチャンドラ・ボースらヒンドゥー至上主義者と近い思想を持っていたのではないかと見る。ただし、名弁護士、法学者ではあったが、正式な判事になったことは東京裁判以前になく、国際法も東京裁判以前には研究した痕跡はなく、税法や相続、法哲学が専門だった。

ムスリムが多く、宗教対立が激しかったベンガルではヒンドゥーナショナリストが上層社会に多く、パルとの人脈も太かった。また、税法の専門家として富裕層とも付き合いが多かったようだ。そのことから、パルは強烈な反植民地主義者ながら反共保守主義的な考えを持ち、欧米への強烈な反感意識や反共の信念から日中戦争を「自衛のためだった」とする日本の主張を認める判決を書いたのではないか、と著者は見る。東京裁判に関心を持つものとして、パル判事の全員無罪を考える上で本書は、岩波新書という毛色はあるものの、著者の視点で一つの解答を提示している。本書の内容は、wikipediaの当人の欄でもある程度トレース出来るが、虚像のパル像を次々と剥ぎ落とされるような思いだった。
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12 人中、8人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
 本書を読んでから、レビュアー水無月さんが指摘する著
者の中島岳志『パール判事』への書評及び本書で日本の
研究者で最初にパル意見書をきちんと読んだと紹介されて
いる家永三郎の論文「十五年戦争とパール判決書」を読み
ました。同論文では「パール判決の性格の歴史的由来(は)、
他日専門家の手により解明されるのを待つ」とされており、
四十数年を経て本書でやっとそれが着手されたと言える
のだと思います。
 本書で明らかにされた彼の実像とは、彼が東京裁判の
判事に決定したのはイギリス総督下のインド政府の手違
いによるものであったこと、また彼はその時既にカルカッタ
大学副学長を退任していたこと、そして彼の裁判での意
見書は独立後のインド政府の支持を得られなかったこと
などです。特に彼が思想的にはヒンドゥー大協会に近い
保守的なナショナリストであったことを明らかにし、意見書
の作成にはある種の予断があったことを示唆したこと(こ
れはB.D.A.レーリンクの「彼は先入観をもっていた。」(『レ
ーリンク判事の東京裁判』)という証言と符合します。)
は、数々の神話から我々を解放するのに充分なものでし
た。
 立証には彼の親族や関係者への周到なインタビューを
実施し、現地の伝記や遺族による略伝を参照するなど手
が尽くされており、まずこれらは限りなく事実に近いものと
思われます。今後は事実関係に拘泥するより、本書が指
摘するように国際刑事裁判所の活動に合わせ東京裁判の
プラスマイナス、そしてパル意見書を同時に評価するよう
な方法で見直しを進めていくべきものと思いました。
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