あまりにあでやか、あまりに爽快、あまりにはかなく、あまりに透明。
夢想はあまりに美しく、現実はいつだって退屈。
「1830年の冬……」というかの有名な書き出し、一見ただの歴史小説かと思わせて、その実、
主人公ファブリス・デル・ドンゴの純粋無垢たるや現実の人間存在をはるかに超え出て、
それでいて、いつしか入り込まずにはいられないその魅力――
もはやことばを重ねるだけ野暮というもの。とにかく読まれたし。
スタンダールの二大長編といえばもちろん『パルムの僧院』と『赤と黒』、あいにく誰の
書評かは忘れたが、各々の読者にとっての両者の優劣は読む順番によって決まる、
とのこと。
私も同感である。
前者を先に読んだものにとって後者はまだまだ完成度が低く、逆に後者を先に読んだものに
してみれば、おそらくはデジャヴュに支配されて、前者が焼き直しにしか思えないのでは
なかろうか。
もし双方ともに未読の方がおられるのならば、私はもちろん、この『パルムの僧院』を先に
読まれることを勧める。
日本語訳としては、この大岡訳が抜群。