このオムニバスの製作者は、後にピンク・フロイドの音楽を起用した映画「モア」(69年)で監督デビューするバーベット・シュローダー(第二話に出演も)。
いずれも16ミリ・フィルムと少人数スタッフによって撮影されているが、手持カメラの粗い画像はかえって60年代のパリを生々しく伝えてくれる。関係者たちは低予算の制約を逆手に取ったような創意に溢れ、フランスのヌーベルバーグ作家郡の当時の勢いというものを感じる。凡庸な駄作は一本も含まれていない。
「サン・ドニ」は娼婦街として知られ、冒頭ネオンの瞬く街路の様子を観ることが出来る。密室で交わされる、どこまでも気弱な独身者とどこまでも老練な街娼とのやり取り。カメラのアングルや細部の描写も計算されている。
「北駅」は恐るべき傑作。単に長回しというのでは言い足りない撮影が醸し出す不安感と、ラストシーンに向かって加速度を早めていく物語の展開によって、次第に高められた緊張感が一気に放り出されるような衝撃の瞬間。こんな作品を手掛けるジャン・ルーシュは尋常でないと感じるが、すべて日本未公開という作品リストからも魔術的芸術に満ちた雰囲気が感じられる。
「サンジェルマン・デ・プレ」は界隈の文化的な雰囲気を捉えた導入部と、その裏側にあるいかがわしさを表現したような物語との対比も面白い。
ロメールの「エトワール広場」でも、凱旋門の周囲を成す独特の構造がうまく活かされたサスペンスとユーモアが成立している。第三話の監督も出演。
「モンパルナスとルヴァロア」は画面外にあるインダストリアル・ノイズと、アクション・ペインティングを茶化したようなアイディアが、やっぱりゴダールらしい。
「ラ・ミュエット」とは高級住宅街であり、同時に無音という意味を持つのが肝となる。シャブロルは自ら出演もして、本作を含めて3本しか撮らなかったという短編で実験を楽しんだに違いない。