本作は、パラレルワールドをモチーフとした青春恋愛ものでありSFミステリでもある物語で、第15回電撃小説大賞金賞を受賞した静月 遠火の第一作です
少女と少年がそれぞれ相手はすでに死んでしまっている平行世界に存在し、携帯電話で話すことしかできないというアイデアは非常に魅力的で、トリッキーな設定をもちいることで逆に青春恋愛ものとして淡い叙情をストレートに表現することに成功しています。
会うことはできないけれどそれぞれの世界で同じ場所に立ち/同じものを見るという情景、平行世界間で間接的な形でプレゼントを贈るもどかしさとそれでも渡すことができた喜び、特殊な状況ゆえの電話でのケンカの持つ重みなど、恋愛ものにおいて本来ありがちなエピソードに独特の切なさを付加しており、携帯電話を重要な小道具にするという共通点もあり、新海 誠『ほしのこえ』を思い出させるテイストです。
一方、あとがきで明示されるように、本作は時間SFミステリの傑作、高畑 京一郎『タイム・リープ―あしたはきのう』へのオマージュとして書かれた作品でもあります。実際プロットはそれぞれの平行世界での少年/少女の死の真相を探るというミステリ的なものです。
しかしながら、SFミステリとしては『タイム・リープ』にくらべると数段落ちると言わざるをえません。構成と伏線回収はしっかりしているのですが、惜しむらくは「パラレルワールド」という大枠の設定がミステリとしての謎と解決に有機的に関連しない点です。その結果、『タイム・リープ』のような時間SFとミステリがエレガントに結びつくパズル的な構成美を感じることはできません。
偉大な先達に挑み、健闘しながらも力及ばずという印象です。まだ1作目なので次作には大きく期待しています。