他の方も指摘されていますが、洋画を何本か見ている方であれば、最初の24ページぐらいを読んだだけで、その後、冬樹の目の前で起こる不思議な現象の謎はなんとなく見えてきます。
ただ、私が評価を高くしたのはそれ以上に、現代文明に、そして人が周りにいることが当たり前になっている私達が、それらを全て失った時に何を思うのか、その着目点が非常に重く深かったことが挙げられます。
地震や浸水が立て続けに起こり、でも生きている人数が少なすぎて修復する間もなく次の災害が起こる。当然、食べ物を作りだす余裕もなく、今ある食べ物を探し出すしかできず、当然ながらそれでは量に限りがある…。そんな極限状態を読者に疑似体験させ、その中で「こんな時、人は何を考えるのか」を目の当たりにしているかのような読み応えがあります。
人間には「食欲」「性欲」「愛情欲」「名誉欲」etcさまざまな「欲」がありますが、極限状態に陥った時、意味をなさない「欲」や、それでも人間について回る「欲」があることなどは、いろいろ問題はあるものの世界レベルで考えたら平和な日本という場所に住んでいる私は、この本を読まなければあらためて向き合うことはなかったと思います。
しかし、「善悪」に関する倫理観などは、正直私には理解しにくいものがありました。でも、この本を読んだことで、今まで一方方向から見ていたことを、他方向から見る機会を与えられたとは思います。
そしてラストは悲しさと「ほのかな良さ」もあり、私はとてもいい終わり方だと思いました。