人が何かを考えごとをしている時、考えている主体とはいったい何者でしょうか。常識に従えば、答えは「私」。・・・「私」が「考える」のだと大方の人達は明言するでしょう。
しかし通常、「考え」とやらは何の働きかけもしないのにどこからか沸いて出てきます。よし、何かを考えるぞと意志をもって考えるのではなく、気づいたら何かを考えていた、というのが人の常態ではないでしょうか。
「私が考える」のではなく「考えが勝手に考えている」。考えが私の頭の中で始終べらべらおしゃべりを続けます。やれアイツはどうだとか、お前は何者だとか、今あれをするべきだ、とかマシンガンのように喋り続けて、そうした声をふつう我々は自分の声だと思ってただただ聞き続けている。
ドン・ミゲル・ルイスは言います。その声の主体はあなたではないと。声の主はあなたではなく、あなたの頭に寄生しているパラサイトなのだと。そしてそのパラサイトこそが、楽園であるはずの真の人生への知覚を歪ませ、地獄にすら変えてしまう諸悪の権化であり、人類の不幸の根だというのです。
ですから人生に再びパラダイスを奪還するためにはパラサイトにお喋りをやめさせることが必要です。
そして本書は全編を通じてパラサイトが我々の頭を乗っ取ってしまう手口や対処法が丹念に描出されています。本書はパラサイトの生態学であり、パラサイトから真の人生を取り戻すための手引書といってよいと思われます。
素晴らしいのは、その分析が秘境的な雰囲気でごまかしたり煙に巻いたりせず、実に明快な論理で丁寧に語られているということ。古代シャーマンの知恵ということで身構える必要は無く、誰にでも理解しやすく説得力のある文章となっています。それでいて、自伝的な要素や神話調のたとえ話など詩的なギミックもたっぷりで、読み物としての美しさや魅力も兼ね備えています。
こうした分析の丹念さや読み物としての充実感は『
四つの約束』には見られなかったもの。同書でいまひとつ言葉足らずだった部分がよく改善されているなと思います。
したがって『四つの約束』を補完する本として読むこともできるし、もちろん一冊で完結した「パラサイトの声を見破り、そこから脱同一化を図るためのノウハウ本」としての役目も十分に果たしてくれています。
ひとつ残念に思うのは、「パラサイトの声からある程度自由になった後」・・・のノウハウがよく分からない点です。一応「愛に溢れる自分のストーリーを語りなさい」という魅力的な提案がなされてはいるのですが、この辺りがノウハウという観点からはいまひとつ説明不足であって、具体的に何をしたらいいのか分かりづらいのです。
なんといってもここは著者のオリジナリティが発揮された特徴的な論点であるだけに、しっかりと語りつくして欲しかった。
せっかく『四つの約束』で言い足りてなかった部分がスッキリしたかと思えば、またちょっとよく分からないモヤモヤが残ってしまったかなというのが悔やまれます。