惑星テルツロックで先住のクリスタル生物とハルト人との平和な共生の道を探るスマイラー、テケナーの活躍と‘それ’がヴァンネから吸収したコンセプト6人のノエマ達それぞれに幻視させる惑星エデン2での薔薇色の未来の姿を描く大長編SFスペース・オペラ宇宙英雄ローダン・シリーズ第418巻。本巻の執筆者はドイツのSF界を支えた優れた中堅作家フランシスとヴルチェクの競演です。まだまだ続々と明かされる‘それ’の人類に対する「成就の計画」の興味深い構想ですが、どうして人類の一部だけを半ば強制的にコンセプトに進化させる道を取らせるのか真の意図は未だに理解し難いです。
『理性の回復』H.G.フランシス著:テケナーとジェニファーの努力により暴力クリスタルの遮蔽装置を使ったハルト人の沈静化が効果を表したかに見えたが、レルツ船長はそれだけでは不十分と考え暴力クリスタルへの攻撃を決意する。本編ではクリスタル生物との対話が生む近傍惑星への遠征作戦の大成功から一転してラール人艦隊との戦闘でのハルト人の強気の姿勢が裏目に出てテラナー二人の細胞活性装置が失われ危機にさらされるという波乱万丈の展開の連続で一気呵成に読ませます。『パラダイスの幻影』エルンスト・ヴルチェク著:ケルシュル・ヴァンネとコンセプトを形成していた6人のノエマ達は分離して無理矢理惑星エデン2へと運ばれ、‘それ’に元に戻して欲しいと訴えていたが、やがて個々にエデン2での薔薇色の未来の姿を体感させられる。一方ヴァンネは7D人間でなくなった事をラール人に秘したまま目前の要求される難題の対応に苦慮していた。本編ではタイプの異なる人間それぞれが望む奔放な理想の未来のヴィジョンに興味を惹かれます。二倍・三倍コンセプトや生殖を伴わない生命誕生という考え方等々の大いに魅力を感じるSF的発想が示されます。そしてやはり最後にヴァンネの安楽な道に逃げないでどんなに困難な局面に立とうとも諦めずに戦おうと決意し人類愛を貫こうとする揺るがない不屈の闘志に強い感動の念を覚えました。
本巻の翻訳者、嶋田洋一氏のあとがきは前半で暮れに埼玉県に転居した事もあって今年も慌しく締め切りに追われる日々になりそうだと予感され、後半で作中に出て来る‘ノエマ’という精神現象学の用語をご自身の昔の思い出をまじえて解説されています。人類の友ハルト人の惑乱騒ぎにも終止符が打たれようやく個々のエピソードが収束しつつある手応えが感じられて来ましたし、誘拐されたローダンの運命も非常に気になる所ですが、今はラール人と人類の長い戦いの決着と‘それ’が導くコンセプトの未来の行方の二点に絞って関心を向け焦らず気長に読み進んで行こうと思います。