本書はマープルものの中で1番面白い作品である。
すれ違う列車の中で起きた殺人を目撃するという出だしはなかなか魅力的である。その後発見された女の死体が一体何者なのか、また誰が何のために彼女を殺したのか。そしてその後に続くクラッケンソープ家兄弟の連続殺人。当主であるルーサー・クラッケンソープを殺すならば、その子供たちや孫に遺産が転がり込むので話はわかるが、なぜその子供たちが殺されるのか、殺された女と何か関係があるのか。盛りだくさんの謎に対する興味は尽きない。
しかし、その謎解きとなると実に腰砕けである。女の死体の正体やクラッケンソープ家の長男エドマンドの行方不明の婚約者マルティーヌの行く末などには意表を突かれて面白かったが、犯人と犯行動機そのものに対する推理というものが何もないのである。また実際、作品中の手がかりから犯人を導き出すのは不可能である。
マープルものにはこういう作品が多く、「灰色の脳細胞」を駆使して真相を推理するポアロと違って、長年の観察により培われた人間性に対する直感を基に真相を探り当てるマープルは、「推理」作品では『火曜クラブ』のような短編集にこそ真価を発揮するのだろう。
その一方、マープルものには読み物として面白い作品が多く、とくに本書は『動く指』と並んで最も面白く仕上がっている。
本書では、死体の捜索役としてマープルに雇われたルーシー・アイルズバロウと、『予告殺人』でお馴染みのクラドック警部がミス・マープルの手足として活躍するが、とくにルーシーの恋愛模様(というか、クラッケンソープ家の誰もが彼女に言い寄る様が)作品に彩を添え、彼女が最後に誰を選ぶかを読者の想像に任せているのも、読後に余韻を残させることに成功している。