上巻に引き続き、ビクトリア女王即位60周年に沸く絶頂期の大英帝国の諸相を描きます。帝国の宝石たるインドの統治を支えたインド行政官の制度と実態、同時代の英国人たちが帝国を如何に受け止めていたかを現す音楽・文学・絵画等、宗教面における帝国主義の兆表などなど。こうした点描を通じて、英国の人々にとって帝国とは何だったのか、パックス・ブリタニカとは何だったのかが、多角的な視点から説き明かされていきます。
そして、権力と繁栄の極みの中にあっても、古代オリエントやローマ帝国など、同じく隆盛を誇りつつもやがては歴史の彼方へと消えていったかつて諸文明の記憶が、亡霊のように英国人を苛みます。アルイランドや南アフリカのように、何としても帝国支配が貫徹しない一部の海外領土。インド等をはじめとして、次第に民族的自覚と民主の方向性に走る現地の人々。経済・貿易面を皮切りに、次第に発言権と独立性を伸ばしつつある白人植民地。そしてまた英国の人々は、アメリカやドイツの重くて確かな気配と足音を否が応でも意識せざるを得なくなっていたのでした。
上下巻を通じて、本書は「大英帝国」なる捉え所ない現象を解き明かす大きな試みであり、イギリス人たちにとっては父祖が営んだ大事業の総括であり、「帝国」に寄せられた荘重な墓碑銘と言えるかも知れません。今日のアメリカの隆盛を見つめる際にも、一定の参考とすべき視座を提供できるのではないでしょうか。