本書は清朝末期から人民共和国成立までの中国近代史を概観し、史上の人物の行動や発言を通して、日本人には理解しにくい「中華思想」すなわち中国人の思考形式についての解説を試みた力作だ。なかでも面白かったのは、新しい時代を切り開くことが出来る一流の人物とは、歴史の流れに乗ることが出来る人物ではなく、歴史に造反することを心得た人物だと語る箇所で、著者は長い中国史のなかでも、そのような人物は、秦の始皇帝と毛沢東の二人だけだという。
著者はその理由として、毛沢東が大衆を政治運動に動員することに特別な才能を持っていた点をあげる。彼の政治手法が、始皇帝以来数千年にわたって支配体制と人民大衆の社会を隔てていた大きな溝を埋め、それまで政治に背を向けていた人民大衆を強制的に政治に直面させたことに大きな意義があったのだという。
最近、テレビで文化大革命当時のフィルムを見たが、毛沢東を賛美し他の価値観を否定するファシズム的熱狂が社会全体に広がっていた様子が伝わってきて一種の恐ろしさを感じた。しかしその番組の中でも、こうした中華思想を含めた過去の価値観を否定しようとする運動があったからこそ、改革開放後の経済発展が可能になったという発言があり妙に納得させられた。現代中国における毛沢東の影響がプラス面マイナス面共にとてつもなく大きいことは間違いないようだ。