このテの経済に関する翻訳書でいちばん大切なのは、スピード感である。それは、この書の翻訳をススメた「張本人」である、気鋭の、そして、信頼するに足る経済学者、若田部昌澄氏が「解説」に書いていることでもある。
2008年の秋、次々新聞の見出しを塗り替えるように騒がせた、アメリカ金融界の一連の、そして未曾有の、「事件」に関し、物知り顔のネット野次馬はともかく、名のある経済学者でさえも、ほんとうのところはどうなのか、誰も一般読者に、納得がいくようには説明し得なかった事柄が、若田部氏の望み通り、「スピード感のある訳文」で、心ゆくまで説明されている。
アメリカ発の、「今」を説明してくれる経済書は多々翻訳され、斬新なタイトルにつられてつい買ってしまうが、いざ読み出したら、訳文がもたもたしていて前に進めない……といった経験はないだろうか?
本書は、原書が出てからの期間も非常に短いが、文章もきびきびしていて、膨大かつ綿密な取材をしたものでありながら、読者を飽きさせることのないスピード感溢れる読み物となっている。
本書を読んで驚くのは、中央銀行が、国家を超えた力を持って国の行方を左右していたという事実である。そして、人間である以上、どんなに知識の豊富な人間も間違える。間違えたことが悪いのではなく、ここには、それをちゃんと記述した透明性がある。経済学者と同等の、あるいはそれ以上の知識を持って、ことを解明する、真のジャーナリストがいる国はうらやましい。