バレエについての知識が全くない私は、文字通り本書で「入門」することになったわけだが、はい、観にいきたくなりましたよ。すごくいい本だ。もちろんバレエを中心に、けれどバレエに限らず踊る身体の美しさをわかりやすい「です・ます」調の語りで、文芸的な表現もたっぷりと使いながら解説していくのだけれど、ひとりひとりのダンサーやコリオグラファー(この本で初めて知った言葉です)に、いちいち興味がわいてくる。
人は踊ることで自我から解放される。そして優れたバレエはこの世界で生き死にすることの意味をこれ以上ない感動的なかたちで表現するのであって、それは観客の心と身体を媒介にしてその場にいるものに共有されるのだ、というのが著者の基本的な発想だ。そして、バレエの講義をとおして「人間とは何か?」という問いがあくまで軽やかに探求されていく。あるいは西洋の精神史の一面が跡づけられていく。こうした思想的な話がなければ、ちょっと興味が持続しなかっただろう。ただし、バレエを単に「思想」を伝えるための道具と考えてはいけない、と著者は釘をさしているから安心だ。けっきょく、人間の限界に挑戦する芸術を楽しめばよいのであると。そうしようと思った。