五嶋みどりによるバルトークのヴァイオリン協奏曲集。
協奏曲第1番は、若かりしバルトークが恋人のヴァイオリニストに恋をうたった詩を添えて贈ったものだという。これがバルトークの作った曲か、と疑いたくなるほどに甘いメロディが曲のいたるところに散りばめられていて、聴いていると妙にロマンティックな気分になって、初恋のときのことを思い出したりしてしまう。
バルトークにとって不幸だったことに、この曲を贈った結果はとても苦いものだった。この美しい曲を作曲した18歳の音楽家は、64歳で死ぬまでこの曲が演奏されるのを聴かなかった。
“この曲は、彼の死後、1956年になって初めて陽の目を見たもので、曲の背後には、彼自身のラヴストーリーが秘められている。当時19歳のバルトークは、絶世の美女シュテフィ・ガイエル(1888〜1956)に、愛の告白を込めてこの曲を捧げようとした。しかし、曲が完成した時には、残念なことに彼女はすでに手の届かないところにいた。シュテフィはチューリッヒへ引っ越し、結婚してしまっていたのである。”(エッゲブレヒト著・シュヴァルツァー節子訳『ヴァイオリンの巨匠たち』(アルファーベータ)106頁)
第2番はずいぶん雰囲気の違う演奏だった。バルトークの斬新な部分を強調したい意図に基づくものなんだろうか。音やリズムの変化が鮮やかで、ハリウッドの映画音楽を連想させる音響だった。普段はシェリングのような古典的な演奏スタイルを好んで聴くが、これはこれで好き。なにせうまい。