ハンガリー出身の理論家エルネ・レントヴァイによって書かれ、1978年に日本で初版された。レントヴァイはバルトークの作品を分析するにあたり、中心軸システム、黄金分割、半音階システム、全音階システムと呼ばれる非常に興味深いシステムを提唱している。
日本ではこれまで十二音技法とトータルセリエズムに比重が置かれていたため、フォーカスされる機会は少なかったのではないだろうか。
本文より―
『和声的進化の過程を調べてゆくと、中心軸システムの発生が歴史的必然性をもち、ヨーロッパ機能音楽の論理的帰結(ある意味ではその完成)であることが結論付けられる。』(P7)
ヨーロッパ音楽の論理的帰結。これは調性崩壊のまさに一瞬前の出来事であり、最も豊かな実りでもある。
【中心軸システムについて】
このシステムの一部は、ジャズの裏コードといった技法として単純化され、現在でも使われている。彼の代理関係の拡張はドミナントコード(GとD♭)だけではなく旋律や調的関係にも及ぶ。
音程、和音、調性の代理関係を12音にまで拡張し、調性機能に準拠しながら限りなく無調なサウンドを得るための方法として、有効な技法である。
彼のピアノソナタを聴くと、ジャズそのそのものなのである。現代における継承者はチック・コリアである。セシル・テイラーも同じような部類に入る。モダンジャズのルーツはスクリャービンやシリンガーの和声システムだと言われているが、実はバルトークなのだと主張する人は殆どいないのはなぜだろうか。
バルトークはこれらの技法を開発するにあたり、自身のライフワークである東ヨーロッパの民謡研究を導入している点が非常に興味深い。同じサウンドでもシェーンベルグやベルグ、ウェーベルンといった新ウィーン楽派の理論とはまるで異なる。どちらかと言うとドビュッシー〜メシアン、武満徹の流れに近い。
これは本文にはないが、例えば4度和音についての見解は非常に分かりやすく対照的である。シェーンベルグを始めとする新ウィーン楽派の見解は、『完全に想像上の産物』であるのに対し、 バルトーク側の見解では『声による旋律の基本音程(核音)の和音化』である。
現代の民族音楽研究の分野では、柴田南雄氏の骸骨理論、小泉文男氏の核音理論、或いは山下邦彦氏の優れたモード研究によって一通りの到達を見ている。バルトークの研究はこれ等の先駆であり東洋と西洋の音楽的統一を試みた一人である。
今日でこそ新古典派といった孤立気味なポジションに位置付けられているが、実情はかなり違うものになっている。