現代音楽家としてではなく、民俗音楽研究家としてのバルトークに焦点を当てた、たいへんユニークな書。もともとバルトークは、そのふたつの仕事をほぼ同比重で考えていたようで、著者のアプローチは納得できる。
ナショナリストとして出発したバルトークが、民俗音楽の採集を通じて、「舞踏組曲」のような民族和合の方向へ政治的に転換してゆく過程がたいへん興味深い。面白いのは、バルトークの同じ研究が、最初はハンガリーから非難され、トランシルヴァニアがルーマニアに併合されたのちはルーマニアから非難されるという下りだ。バルトークはこれを「わたしの研究が学問的に正当であるという証拠」と皮肉を込めて書き記している。また、神格化されているコダーイとの「盟友関係」についても実態の一端をあきらかにしている。
民俗音楽研究は、カルチュラル・スタディと同様、政治性を払拭することは不可能だ。そしてバルトークにおいても、優れている=優れていないという軸の設定や、自分の論文が政治的に利用されたことを含めて、そのことへの自覚は十分に持っていたようである。こんにちにおいても、音楽の政治性というものについて考える上で、大変示唆に富んでいると思われる。お勧めだ。