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バルトーク―民謡を「発見」した辺境の作曲家 (中公新書)
 
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バルトーク―民謡を「発見」した辺境の作曲家 (中公新書) [新書]

伊東 信宏
5つ星のうち 4.6  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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商品の説明

内容(「BOOK」データベースより)

二十世紀最大の作曲家の一人、バルトーク・ベーラ(1881‐1945)は、ハンガリーをはじめとする各地の民俗音楽の収集でも名高い。しかしその活動は、ともすれば作曲の余技や下準備のように思われてきた。本書は、ハンガリーが戦後の政治的混乱を脱して、ようやく明らかになり始めたバルトークの思索と行動を辿りながら、ヨーロッパの周縁文化の中で、彼がもうひとつのライフワークとして心血を注いだ民俗音楽研究を再評価する。

登録情報

  • 新書: 204ページ
  • 出版社: 中央公論社 (1997/07)
  • ISBN-10: 4121013700
  • ISBN-13: 978-4121013705
  • 発売日: 1997/07
  • 商品の寸法: 17.2 x 11 x 1.2 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.6  レビューをすべて見る (5件のカスタマーレビュー)
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14 人中、13人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By daepodong VINE™ メンバー
形式:新書
 現代音楽家としてではなく、民俗音楽研究家としてのバルトークに焦点を当てた、たいへんユニークな書。もともとバルトークは、そのふたつの仕事をほぼ同比重で考えていたようで、著者のアプローチは納得できる。
 ナショナリストとして出発したバルトークが、民俗音楽の採集を通じて、「舞踏組曲」のような民族和合の方向へ政治的に転換してゆく過程がたいへん興味深い。面白いのは、バルトークの同じ研究が、最初はハンガリーから非難され、トランシルヴァニアがルーマニアに併合されたのちはルーマニアから非難されるという下りだ。バルトークはこれを「わたしの研究が学問的に正当であるという証拠」と皮肉を込めて書き記している。また、神格化されているコダーイとの「盟友関係」についても実態の一端をあきらかにしている。
 民俗音楽研究は、カルチュラル・スタディと同様、政治性を払拭することは不可能だ。そしてバルトークにおいても、優れている=優れていないという軸の設定や、自分の論文が政治的に利用されたことを含めて、そのことへの自覚は十分に持っていたようである。こんにちにおいても、音楽の政治性というものについて考える上で、大変示唆に富んでいると思われる。お勧めだ。
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2 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
形式:新書|Amazonが確認した購入
本書は、バルトーク(1881年 - 1945年)の64年の生涯を、
民俗音楽研究の観点から見直してゆくもの。
かれにとって民俗音楽研究は、作曲家の余技どころではなく、
むしろかれの人生全体に大きな影響を与えていたことが、
あきらかにされてゆきます。

かれがはじめて民謡を採集したのは、
1904年、24歳の夏、現在のスロヴァキアの避暑地で、
ある女性がコドモに歌いかける歌を、
ふと耳にして、気に入ってからのこと、
彼女は、トランシルヴァニア出身の家政婦でした。
その2年後、1906年から1918年まで、かれは、コダーイとともに、
民謡採集のフィールドワークをはじめ、夢中になってゆきます。
なお、1907年以降は、バルトークはブダペスト音楽院のピアノ科教授、
コダーイは作曲家教授、ふたりは休みのたびごとに民謡収集に出かけてゆきます。

当初のバルトークにとって、民謡採集は、
祖国ハンガリーの民族主義を称揚する素朴な愛国心とともにあるものでした。
(著者はそんなことはひとことも書いていませんが、
グリム兄弟が、ナポレオンに踏み込まれた後に、
愛国心に燃えて、ゲルマン民族の童話を収集したことや、
明治期における柳田國男による日本民話の収集と同じ動機でしょう。
ナショナリズムの勃興期には、必ず起こる現象と言っていいでしょう。)

と同時に、当時、民謡という素材は、
せいぜいエキゾティックな組曲か、異郷風味の交響詩としてしか使いようがなく、
まかりまちがっても交響曲として発展させてゆくようなことなどできないもの、
と考えられていました。
作曲家としてのバルトークの人生は、なんとかして、この限界を破り、
民謡の素材をもちいながらなお、その主題がいきいきと発展し、
堂々たる交響曲にさえなりうるものとして扱いうるようにするための、
創造の戦いだったことが示唆されます。
このように、バルトークの民謡研究と作曲のあいだには、密接な関係がある、
と著者は指摘します。

バルトークの民謡収集は、
オーストリア−ハンガリー帝国におけるハンガリー王国内の、
ルーマニア系住民、スロヴァキア系住民たちに会いに行き、
録音し、記譜をおこない、(これがまた時期を追うごとにこまやかになってゆきます)、
そして分析、さらには分類(なかなかふさわしい分類は見つかりません)をおこなってゆきます。

かれが民謡収集を終えたのは、1918年、なんと象徴的な年でしょう、
なぜって、戦車とマシンガンと長い長い長い塹壕による大戦争によって、
ヨーロッパは壮大な内戦を迎え、
オーストリア帝国は滅亡した年、
おのずとオーストリア−ハンガリー二重帝国だったハンガリーは、
いわば片肺状態に取り残され、国家存亡の危機を迎えています。
その後、ハンガリーでは革命が起こり、
しかし、1919年隣国のルーマニア軍に侵入され、
8月にハンガリーの首都ブダペストは占領されてしまいます。
ハンガリーは、反革命、軍部独裁と短期間に政局が激変し続け、
1920年にはヴェルサイユ条約で、
ハンガリーの国土は、三分の一にされてしまう。
逆に言えば、すでにスロヴァキアはチェコスロヴァキアに、
トランシルヴァニアはルーマニア王国に、それぞれ属領化されます。
すなわち両国のハンガリー人は、それまでの支配民族から、突如、
マイノリティとして抑圧される側に、転落してしまいました。

さて、バルトークも、民謡研究を進めるなかで、
かつてのナショナリストではなく、
多文化共存主義者になっているのですが、
しかし、かれが、かつての広い版図を持っていた時代のハンガリーをフィールドワークし、
320曲のハンガリー民謡の楽譜と歌詞と研究を網羅した、二十年近くをかけた労作、
『ハンガリー民謡全集』が、1924年に、出版されると、
(当然のように)かれは、ひじょうに剣呑な立場に立たされてゆきます。
なぜなら、「ハンガリーが失ったばかりの、
できれば取り戻したいと願っている領土の、新しい支配民族たるルーマニア人の音楽を、
ハンガリー人たるバルトークが外国に向けて紹介するのは、けしからん」という批判にさらされます。
むろんバルトークは、具体的に反論し、毅然と闘い、
かつまたハンガリー民族学会もまたバルトーク擁護の見解を発表し、事なきを得るのですが、
とはいえ、読者は、バルトークが、いささかナイーヴで、
論争において正直な言葉を発するさまを見せつけられ、
読んでいて、はらはらします。
そこには、国家、民族、言語の3つのカテゴリーが入り乱れる東欧ならではの、
しかも大戦争後の騒然たる混乱期ゆえなおのことの、きわどいドラマがあります。

続く第4章では、いわゆるハンガリー音楽のイメージが、
リスト以来、移動民たるジプシーの音楽にすぎないことに抗い、
バルトークは、むしろジプシーは、「真のハンガリー音楽」を歪めるのに貢献した、
と考えたことが紹介されます。
(バルトークのみならず、それはいまなお定説となっているそうな)。
ただし、その後、バルトークの考えは変化し、
<ジプシー音楽/ハンガリー民謡>を対立させるのではなく、
むしろ <都市の音楽/田舎の音楽> として思考するに至り、
田舎の定住化したジプシー音楽に注目するに至ります。

なお、著者は、バルトークの民謡収集への「奇妙で危険な情熱」に、
コレクター的な資質と、19世紀の博物学的態度を見ていますが、
と同時に、著者は紹介します、
バルトークにとっては、(結果的に人生最後の五年間を過ごすことになる)アメリカでの日々、
その渡米の動機は、民謡研究こそが主眼だったことを。
しかもこの時期バルトークは、ヒトラーの理路で称揚されるナチスドイツ芸術に抗い、
自分の論理によるドイツ民謡の研究をおこなう野望をもっていたそうな。
じっさいバルトークは、二年間のコロンビア大学客員研究員時代に、
叙事詩学者のミルマン・パリーが収集した、
南スラブの民族音楽コレクションに、
目をらんらんと輝かせて感動しています。
(おもえば、アーリア人という科学的に定義不可能な民族の優越性を称揚するナチス・ドイツにとって、
スラブもまた差別の対象でした)。

いいえ、それもさることながら、
著者は、ミルマン・パリーが、『イリアス』や『オデッセイア』を、
口承文芸にアクセントを置いて、とらえた研究者であったことに、
読者の注目を喚起します。
しかもこの時期、バルトークは、
なんと言語学者のローマン・ヤーコブソンに、
(そうです、文化人類学者レヴィ・ストロースに影響を与えた、あのヤーコブソンに)
研究上の情報交換を求める手紙を書いているそうな。
もしもバルトークの寿命がもう少し長かったならば、
かれの研究が、そしてもちろん作曲が、いかなる地平に達していたのか、
ひじょうに興味がわいてきます。

また、一般に伝えられてきたバルトークとコダーイの神話的友情が、
実は、ふたりのあいだに研究・分類についての見解の相違がひそんでいて、
緊張に富んだものであったこと、
しかも、バルトークの渡米後にいたっては、
じっさいにはふたりのあいだの友情は決裂していたことも、
公平に伝えてくれます。

本書を読みながら、バルトークの個人史、
そしてかれの作品を重ねあわせると、
とてもスリリングで、さまざまな気づきが生まれます。
また、本書は、文化人類学に関心のある読者にも
隣接的な興味を呼び起こすことでしょう。
読みどころがふんだんにある、たいへんな名著です。

なお、著者には『東欧音楽の回路〜
ロマ・クレズマー・20世紀音楽』(岩波書店2009年)があって。
この本は、民俗的なマイノリティもしくはアウトサイダーたる、
ロマ(ジプシー)の音楽。
東欧のユダヤ人が結婚式やお祭りで演奏する大衆器楽音楽クレズマー。
スコモローヒと呼ばれたロシアの大衆芸人の音楽など、
中東欧の村の音師の音楽こそが、そのハイブリッド性とともに、
現在の世界の音楽シーンを準備する、
「もうひとつの普遍」を作ってきたのではないか。
という視点に基づく労作で、
9章構成の本の最後の章に、
著者のトランシルヴァニア紀行、
『豚飼いの角笛の残響〜バルトークの旅を辿る』
が、収められています。
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3 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
形式:新書
バルトークと言う「作曲家」の成り立ちを知りたくて購入したが、読み解くうちに「人」「研究者」としての側面について、知らなかったことを、次々と提示され、「なるほど」と手を打つこと、しきりだった。オーケストラメンバーとして、「弦チェレ」と「オケコン」の間のギャップに、常日頃疑問を抱いていたが、多少ともそのギャップを埋める情報をいただいた感がある。読み物として面白く、この手の書籍としては、例外的に一気に読み終えてしまった。
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