「博士の異常な愛情」「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」・・・。
キューブリックの最高傑作を決めるのは、難しいと思う。
けれども、彼の一番の魅力が、画面と音と、動作を、一つ一つのシークエンスに並べる
総合芸術だと言う観点で捉えるとしたら、この映画が、その最高だと思う。
そのぐらい、この映画は、キューブリック作品の中にあっても突出して
美しかった。元々、キューブリックは光の使い方がメチャクチャ上手いんだけど、
この映画では、ライトを使わずに室内を差し込む光と言う信じられない事を
敢行してるのにも関わらず、成功してるし、室内の絵画、コスチューム。
すべてがまさに、「動く絵画」のようだった。
さて、ストーリーの方だが、要するに、成り上がりが落ちぶれていく様。
言ってしまえば、ありきたりで味けない。そういう意味で、
奇異で大胆な物を好む僕はそれほどこの映画のストーリーが好きではない。
しかし、キューブリックはそんなチャチな意見を見越すかのように
「たいていの事は誰かが既にやっている。大事なのは、より素晴らしく見せる事だ」
と言う意味(だったと思う)のストーリー論を語っている。
彼の映画は、ビジョンやテーマを知ることで、その単純に見える
ストーリーを何倍にも良く見せるので、油断できない。
そのテーマは、都会の空虚さであり、貴族の空々しさであり、
偽装された関係だと推測する。それを示すかのように、バリーは、
最初は感情的に行動しながら、段々と人間に愛情を注がないようになる。
まるで、そうでないと貴族社会では生きていけないかのように。
彼の他作品で見られる、シーンに一見当てはまらないような音楽が
刺激的に重なり合って、サブリミナルのような強い印象を与える、
そんな音楽の使い方を、当映画ではしていない。
けれど、どこか野心的で、心の内を隠すような選曲は、もしかしたら、
そんな欺瞞を、音楽でも表現しているのかも知れない。
正直、僕はハッキリと理解できていないだろう。
しかし、キューブリックの映画は、見るほどにその力を見せつけてくる。
いつかは、その計算されたいくつかが僕を捉え、単純に見えるストーリーの奥行きを醸しだし、
「バリー・リンドン」を絶賛せざるを得なくするだろう。
そんな予感すらする。