ディケンズと並び称される、ヴィクトリア朝時代の作家ウィリアム・メークピース・
サッカレイの『バリー・リンドン』を、キューブリックが美しい「動く」絵画のように
仕上げた作品。
とにかく1カット、1カットが息を呑むほど美しい。「伝説の」ロウソク撮影だけでなく、
緑豊かな田園風景、抜けるような青い空、流れ行く暗雲、枯れ葉舞う森、赤い制服の
イギリス兵の隊列…等、1カットごとの構図、色彩の凝りようが尋常でない。キューブ
リックは、18世紀の絵画を参考にし、当時の風物をそのまま再現しようとしたという
が、その目論みは見事に結実したといえるだろう。
その映像至上主義に比べると、ドラマそのものが素っ気無いのが、いかにも天邪鬼
キューブリックと言ったところ。彼は一貫して、ドラマチックなピカレスク・ロマンに仕
上げることをせず、バリーという野心家の栄枯盛衰を傍観者の目で冷然と眺める。
キャメラは常に対象物から離れ、ロングで捉えることからもそれはわかる。静かで、
ストイックなスタイルだ。対して、2度あるラブシーンはストイックながら(いや、スト
イックだからというべきか)、美しく官能的だ。キューブリックのフィルモ・グラ
フィーの中でのラブ・シーンのベストではないだろうか。
DVDの画質は、本編の長尺もあって、若干デジタル圧縮の弊害もあるが、総じて、
デジタル・リマスターされた画質は良好。ただ、そろそろBlu-rayのHD画質で、この
極上の映像絵巻を楽しみたいというのが正直なところだ。