北欧における著者の実生活・経験をもとに、わが国の福祉制度やデザインが抱える問題点を明らかにしていく過程は、福祉業界への入門書としてオススメです。本文中ではとくべつ専門用語が出てこないにもかかわらず、シーティング技術やユニバーサルデザインの基礎にかかわる重要なエッセンスがいくつもちりばめられています。
単なる福祉入門にとどまらず、一定以上のスキルをもつ人には長年の経験でしか得られないノウハウ、あるいは手がかり得ることができる技術書ともいえ、感覚統合などきわめて理解のむずかしい領域がこのように明るく(楽しそうに?)書かれているのには驚きました。
発行時点からいえば10年以上むかし。介護保険の施行より以前に書かれた本ですが、現在でもそのまま通用する内容であることを、驚くべきか、嘆くべきか。本書を通じ、人々が高い意識で福祉にかかわるようになれば高齢化社会もさほど不安なものではないと思うのですが、著者の期待を現実化することは、国民の意識いわば常識の水準を訂正することであり、それには多くの困難を伴います。
いまや著者はシーティング業界のビッグネームであり、誤解を恐れずにいえば知らない人はモグリといってよいほどの有名人です。現在も精力的に活動を続ける著者の原点・原体験の多くは、本著の中に多く見出すことができると思われ、黎明期・草創期特有の手さぐり感や達成感を追体験できることは、後に続くものにとってたいへん貴重です。
この感覚を共有できるかどうかで、読者の高齢者・障害者に対する立ち位置はかなり変わってくるのでしょう。