もちろんシュンペーターのアントレプレナー(企業家)は投機家である。誰が見てもソロバンに合う投資であればとっくに既存の誰かが手をつけている。リスクがあると思えばこそ未知の領域でありあえてリスクをおかしてこそ創業者利得が手に入るのだ。17世紀にスペキュレーター(投機家)と言えば錬金術師と同義であったらしい。「しっかりした事実の裏付けをもたない思索,理屈」の意で通常ほとんど成功しなかったと手きびしい。
投機が資本主義の日常茶飯事であるとしても時々「国をあげて」夢見る人々におちいることがある。これがバブルである。なぜバブルが発生するのか。経済学,とくに金融論的にはかなり詳細に分析されているがそれは過去の事例。日本の80年代バブルの時には当然オランダ・チューリップ以来の歴史がわかっていたわけだし,今,米国,やがて先進国をまきこみかねないIT(情報技術)フィーバーも前例を知らないわけではない。
この本がすぐれているのは投機熱を社会史的側面から記述していることだ。バブル中に起こった現象は酔ったあげくの愚行と同様でさめてみれば「なぜあんなことを」である。問題はどうして前後不覚になるまで飲まなければならなかったか,である。その心理である。
当然のことだがバブルは豊かな国で起こる。貧しい国,デフレの国では起こらない。持ちつけない,未熟の富裕感覚が投機に走らせる。または今は豊かではないが早くなりたい,なれるかもしれないという願望,それにつけこむ悪党,これが必要にして十分なバブル発生条件である。偶然の蜃気楼ではないのだ。
たとえばチューリップ投機の17世紀初めのオランダは世界一ゆたかな国であった。スペインの圧政から逃れたユダヤ人,プロテスタントが流入し東インド会社は空前の富を集積した。17世紀後半には英国へ移る。折りしも金融革命が進み企業熱が高まっている時フィップス船長のカリブ海の銀,宝石引上げが火をつけた。このバブルは一度つぶれるが18世紀の国債とのバーターを餌とした南海泡沫(バブルの語源)で政治の土台をゆるがす。
18世紀から19世紀にかけての運河,鉄道株ブームも一種の技術改新だ。「これで世界的文化が育つ」,最近のITブームにソックリだ。
著者は英国人だから英国の事例にくわしいが米国(日本にも)にカラい。バブルの破滅はもちろん自己責任だが堅実な国民性がそこなわれるという指摘は正しい。引用されている相場の格言「今度ばかりは違う」を何度くり返してきたことか。 (東洋マネジメントコンサルティング 顧問 神崎 倫一)
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