この演奏はカール・リヒターの遺した録音として58年の「マタイ受難曲」や61年「ミサ曲ロ短調」等とともに代表的な録音の一つでしょう。60〜61年頃の録音なので、ステレオ録音とは言え決して音質は良いとは言えないし、近年の研究において、リヒターの演奏スタイルがいささか当時とはかけ離れているという指摘もそう外れていないかもしれません。しかし、それでもこの演奏から発する独特の精神性は何者にも代えがたいものがあります。言い過ぎかもしれませんが、ある意味、フルトヴェングラーのように他のどんな名演奏でも到達できない何かがリヒターのバッハにはあるように感じられます。
この管弦楽組曲においてはどの曲においても、リヒターの個性が十分に発揮されていますがとりわけ、素晴らしいと思うのは第2番の演奏です。ここではニコレのフルートがバッハの曲目に彩りを添え、リヒターの表現に一層磨きをかけています。このCDの裏面では特に3番の演奏を讃えていて、私も決して否定はしませんが、この第2番組曲はリヒターによって永遠の生命を宿ったと言って過言ではないでしょう。確かに、この演奏はその使用されている楽器からも、幾分重く感じられると思いますが、聴きなれた耳にはリヒターのバッハはまさしく‘正統派’路線にあるわけです。
こうした点からもリヒターの業績は偉大であり、その早すぎる死が惜しまれます。