この人のヴァイオリンは、美しいというよりもとにかくカッコいい。
「大バッハ」の作品を前にしても堅くなるどころか自由自在なのは、
ハイフェッツならではだと思います。今後も、こんな無伴奏が録音されることは
まずないでしょうし、その価値は上がるばかりだと思います。
ハイフェッツの凄いところは、とにかく始まったら終わりまで悩みがないこと。
指は忙しく正確に回り、弓は滑らかで、音色はどこまでも明澄。
変な重々しさやひっかかりはまったく感じられません。
それだけに、小難しいのがお好きな方からは浅い演奏と思われがち。
ですが、ハイフェッツの内なる情熱は、ボウイングの速さと鋭さ、
熱っぽいトリルにおいて、十分感じられます。
全6曲、どれを取っても平均点以下の出来のものはありません。
個人的には、厳格で多声的なソナタよりも、アルペジオ風の旋律が多い
パルティータのほうが、素晴らしい仕上がりだと思います。
特に、パルティータの2番と3番は何度聴いても、ハイフェッツのがベストですね。
あらゆる作曲家の音符が、ハイフェッツの音楽になって出てくる。
演奏芸術家としては、最高の人物だと思います。
同じく驚異のテクニックで数々の録音を残してくれたグールドは理知の人でしたが、
他方、ハイフェッツは感性の人だった。そんな気がします。