この人のチェロ、いや、音楽が好きだ。いつでも、機嫌がよく、朗らかで、そして何よりも難しくない。
バッハの無伴奏でもやはりその美点が存分に発揮させられている。旧録よりもチェロの音色は太く、分厚く響くが、それでもなお健康的に朗らかで、屈託がない。こんなことを書くと演奏しているヨー・ヨー・マに叱られるかもしれないが、眉間にしわを寄せて、真っ暗闇のなかで演奏されるような大仰なバッハでは決してないのがいい。陰をまるで感じさせられないのだ。しかし、そこがいい。そういう類の演奏はほかの大家に任せておいて、ヨー・ヨー・マの卓越した技術と、伸びやかで圧迫感のないバッハを楽しみたい。
録音もすばらしいし、何よりもきっとここで聞けるチェロの音は多くの人が思い浮かべるチェロの音にもっとも近いのではないだろうか。
数ある無伴奏の録音のなかで初めて買うのであればヨー・ヨー・マのこの録音は一押しだと思う(ここで聞いて気に入れば、カザルスなりフルニエといった過去の大家の演奏を手に入れてみればいいし、もしくはビルスマや鈴木秀美氏のすばらしい録音に耳を傾けてもいい)。
気になる点がひとつあるとしたら、調弦が低めになっているところ。音感が抜群にいいはずのマなので、これは意図的にやっていると思われる。もっともそのおかげで、先に書いたようにイメージのなかのチェロに近い響き方をして聴こえるのでもあるが。