一点の曇りもなく、実に伸びやかに歌うバッハである。
しかも緩急自在。表現のダイナミックレンジがひじょうに広いという印象で、これは名手アルト・ノラスを師とする長谷川ならではだろう。反面、この曲の内省的な部分はやや希薄にも感じるが、それで魅力が薄れるということはまったくない。伸びやかで艶のある音色にも陶然とさせられる。
ただ残念なのはこの価格。ソロワークで、既に作曲家の権利も消失し、また録音(これは優秀)が国内のホールを借り切って、という条件を考えると、これは「好きな人だけ買ってくれればいい」という日本のクラシック業界の悪しき慣習だろう。音楽をお金に換算することは出来ないとはいえ、これだけの演奏なのだから、もっと多くのリスナーが身近に感じるプライスでの再発売を望みたい。
なお本作は日本のみのリリース。長谷川自身にあまり欲が無いのかもしれないが、日本が誇る音楽家のこの名演を広く海外の人にも聴いて欲しいと願うのは私だけではないだろう。無伴奏の近作ではトゥルルス・モルクやジャン=ギアン・ケラスが素晴らしい出来で、しかし長谷川のこの演奏にはそれらに優るとも劣らない品格がある。