生物に絶滅種や絶滅危惧種があるように、楽器にも使われなくなり忘れ去られてしまった「絶滅種」のようなものがあります。たとえばシューベルトの「アルペジオーネ・ソナタ」は、チェリストなら誰でも取り上げる名曲ですが、もともとはアルペジオーネという楽器のための曲でした。他にもハイドンは「バリトン」という弦楽器のためのソナタをたくさん書いています。「絶滅種」のための曲はけっこう多いのです。
さて、「ジュラシック・パーク」で恐竜が復活したように、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラという「絶滅種楽器」を復元し、バッハの「無伴奏チェロ組曲」を演奏するという寺神戸亮の挑戦ですが、さすがに名手による演奏だけあって、技術的には非の打ち所のない説得力のあるものとなっています。また、演奏者自身が弦楽器族の変遷やこの楽器について論じている解説文はとても興味深い内容で、これだけでも読む価値はあります。
肝心の音は、たしかにチェロよりはやや軽い音質ですが、聴く前に予想していたほどの違和感はありません。むしろ、演奏者自身が解説しているように、チェロでは運指が難しい個所が簡単に弾けるというだけあって、のびのびとした、リズミカルな演奏になっています。
忘れられていた「組曲」の楽譜を見つけたカザルスが「これはすごい曲なんだぞ!」とせっせと演奏したことで、この曲は「名曲」の仲間入りをしたのですが、今回の寺神戸亮の録音は、ひょっとすると、「組曲」の演奏史において、それ以来の影響力をもつものになるかもしれません。ぜひ一度、生で聴いてみたいです。