1979年2月の録音。もう30年以上も昔の演奏だが、グールド以外のピアニストによるバッハ演奏を1作品選べと言われれば、リヒテルの平均律クラヴィーア曲集等の名作も捨てがたいが、私は本作を選ぶ。つまり私にとって30年以上、グールド以外のピアニストによる最高のバッハ演奏。強音はとことん力をこめ、弱音はいつくしむように弾ききるアルゲリッチならではの豊かな感情表現、それぞれの旋律線を躍動させる緻密な計算、そしてバッハへの敬意が調和した奇跡のような作品。本作の収録曲は何れもグールドも録音しているので、両者の曲解釈・奏法を比較するのも一興だ。
オリジナルはLPで発売されたが、本エディションのデジタル・マスタリング+ルビジウム・カッティングを施された音は極めて良好。一音一音がダイナミックでその輪郭はシャープだ。ストイックでありながら情感あふれる稀代の名演。冒頭の力強いアタックから虜になる人がきっと多いだろう。