バッハの音楽を生涯追い求めたカール・リヒターの映像が残されていました。彼の精神性の高さを越えるような演奏は、21世紀の今日まだ聴くことができないほど別格の存在です。
冒頭のキリエから、ミュンヘン・バッハ合唱団の声が圧倒的な精神力をもって胸に迫ってきます。この映像はアンマーゼーにあるディーセン修道院附属教会に於いて1969年9月12〜28日にかけて収録されたものでした。内部の装飾の美しい教会で、背後の壁画や彫像も宗教曲らしい雰囲気を漂わせるものです。映像と声が時折ずれているのは、この時代の技術のせいでしょうか。
リヒターが実際に指揮している姿を初めて見ました。43歳という油の乗り切ったときの演奏です。1960年代はリヒターにとって黄金の時代でした。明確な指揮ぶりですし、横に流れることもなく、アインザッツも丁寧でバッハの音楽にかける真摯な気持ちが伝わってきます。けれん味のない楷書とでもいうべき折り目正しい厳格なバッハがそこに存在していました。
共に多くの録音を残したミュンヘン・バッハ管弦楽団は現代楽器ですが、しっかりとした演奏でした。奏者の技量は素晴らしいですね、リヒター好みの奏者なのでしょう。
ソプラノのヤノヴィッツはこの時32歳、リリック・ソプラノとして美しい容貌とともに透明な声は魅力的です。アルトのヘルタ・テッパーは45歳、リヒターのバッハには欠かせないソリストです。温かい深い音色は他のアルトにはない敬虔な雰囲気を漂わせていました。映像から受ける印象もその通りです。テノールのラウベンタールは悪くありません。ヘフリガーと比較してしまうのはリヒター好きの悪い癖でしょう。バスのヘルマン・プライは40歳、円熟味のある深い音色の持ち主です。落ち着きがあって威厳もありました。
このようにソリストも多くの実績のある実力者を揃えており、時代を超えて聴き継がれる音楽映像だと思っています。