ブーニンが弾いたものではないが、このアルバムの一曲目、コラールプレリュード(bwv639)は、SF映画の挿入曲になったせいか、知ってる人は多い。とても悲しくて、思い出しても涙があふれてくる場面で使われている。
思いがけない再会と確実にやってくる再びの別離、バッハはそんな深く傷付いた後の心に寄り添ってくれる。
ブーニンはバッハ、とくにケンプアレンジを弾くのがおそらく中堅では一番だろう。鍵盤にどんな魔法をかけるのか知らないが、ピアノが荘厳なパイプオルガンになったり、優しい音色の木管楽器になったりする。優しく包みこむバッハの曲を弾く指が一瞬止まる時、ブーニンも、ピアノも、深いため息のような息継ぎをする。聴いていると音のひとつひとつに恋して、苦しくて仕方なくなる。