本書はバッハの生い立ち、人物像、特に職業遍歴とそれぞれの時期の作品について時系列で説明してくれる。
バッハのファンで主要な作品は知っているけど、その人となりを知りたいという方にはお勧めの入門書だ。
職業環境には恵まれない時期が多く、私のような凡人はワイマールやケイテンでの平穏な日々がずっと続いていればと思うのだが…。
バッハのように自由で進歩的ないわゆる天才が、当時の市や教会のお偉方、常識家に理解されないのも当然ではある。
子供たちに大学教育を受けさせるため、そして宗教音楽に関わるため、自ら希望して就職し晩年を過ごしたライプツィッヒの聖トマス教会。
ここでも逆境が続くが、その中でマタイ受難曲やロ短調ミサ曲といった宗教音楽の大作を完成させた。
未完に終わったフーガの技法もこの時期の作品だ。
まさに神のお導きにより、信仰深いバッハは遍歴し、聖トマスのカントルとして生涯を閉じた。
資料編の面白さは本シリーズ共通の特徴である。
バッハの数字への拘りは、よく知られていることだが非常に興味深い。
また、音楽家となった4人の息子たちが、バロックから古典派への見事な橋渡し役を演じたという記載には感銘を覚えた。
一方で、2番目の妻アンナ・マクダレーナは、バッハの死後極貧のうちに生涯を閉じ、「貧民」として葬られた。
事実としてさらりと記載されているが、強いやるせなさを覚えた。
ケーテンの末期から聖トマスまで30年にわたり決して恵まれない時期にバッハを支えたのだから、他の結末はなかったのだろうか...。