一人の天才少年の存在が、家族のみならず周囲の人々の人生をも変えてしまう。
主人公は、ともすれば自己中心的な人物にも受け取れるが、13歳にして大人にさえ真似のできない強い意志と理想を持ち、ストイックなまでにそれを貫き通す。
その姿が、『あきらめること』を覚えてしまった私達大人には、眩しくもあり羨ましくもある。負けるなと心から声援を送りたくなってしまうのだ。
誰をも感動させてしまう程の彼の才能は、本人の知らない所で確実に人々に影響を及ぼしていく。
それが、彼と彼等にとって幸せなのか、不幸なのか?答えはわからないが、作者はそうして私達に、様々なことを問いかけてくる。
人生の中で選択に迷う時、大切なことは何か?そんなことを考えさせられる小説だ。
一人一人の人物設定と心理描写が素晴しく、誰に対しても自己投影できてしまう。つまり、それぞれの立場というものが哀しいくらい理解できるのだ。
それほど、作者は登場人物の全てに愛を注いでいるのだろう。
それが、読後温かい気持ちになれる理由だと思う。
現在、学校生活や進路に悩んでいる子供の世代はもちろん、そういう年頃の子を持つ親の世代が読んでも、充分面白く感動できる作品だ。
「児童書」というジャンルからは、確かにはみ出している傑作。
「野球物」「スポ根物」を読みたい人にはお勧めできない。
私は一気に続編まで読んでしまったが、『バッテリー』は、少年時代の様々な葛藤・家族愛・友情の裏に、時々ちょっとした社会批判・教育制度批判を織り交ぜながらも夢を見させてくれる、そんな愛のある作品だと思う。
できれば、大人になった巧や豪にも会いたい。